「人民の覺悟」
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時事新報に掲載された「人民の覺悟」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
人民の覺悟
政府と議會と衝突して今や恰も姑息の調停に日を〓うする時に當りては何人も坐ろに〓徃二十餘年〓に於ける我政治の經〓を回想し併せて〓來の國〓に思い及ぼすことならん而して其經〓中施政上に〓憾なることども多くして今後も亦多望ならざる勢を察するに及んでは蓋し窃に歎息を催おさざるはなかる可し明治の日本は癈藩に次ぐに立憲を以てして方に是れ改革時代と云う可く一新の政〓は宜しく此時に於てこそ其基礎をなす可かりしに政府は唯徒に粉々として法條を〓下するのみ政治の實際に至ては〓〓失錯を重ね動もすれば實を離れて〓に走り〓空しく人民の感〓を害しながら其最中に國會を開設したることなれば議會も亦行政監督の用をば爲さずして一に政權の爭に走り喧々〓々として復た國利民〓と相關せざるものゝ如し固より經驗に乏しき立憲政治のことなれば俄に之に向て〓分の美〓を望む可からず寧ろ當分は練修と心得て徐々に實効を〓むるこそ順序なれども政客の心事は性急にして議論のみに忙しく練修ともなく盛擧ともなく政府も議會も共に憲法の〓用に苦む有樣なりとは實に不面目の次〓にして人の歎息するも決して無理にあらず能く能く思考すれば本來政治なるものゝ効能は殆んど國民の以て恃むに足らざるものたるを感ずるに餘りある可し若し他に妨げなくんば政局を社會の一隅に押片付けて政狂〓〓の劇塲に供し一般人民は之に頓着せざらんことこそ望む所なれども世界の大勢は競爭の最中にして此際國力を伸長し〓〓の勢を保たんとすれば百般の事業〓を要するもの甚だ多く漫然として之を民間に放任す可からず是非とも國家の公力を假らざる可からざるや明白にして其公力の一擧一動は實に政局の向背遺憾にあることなれば〓際競爭の必要よりして彼の恃むに足らざる政治も亦〓に棄つ可からざる意味あり否な、政權縮小は扨置き此競爭の激しきが爲め却て之を膨張せしめざる可からざる事〓に際〓せり時勢の命ずる所これに從わざる可からざるなり
元來國家の〓轉は他働的よりは寧ろ自働的に動くものにして之を我國の〓事に徴するに今の文明は其初め外國より舶來したる他働的のものなれども之を咀嚼し之を消化して自家の文明となしたるは我自働的の能力に外ならず自働的の能力なきものが如何にして能く他働的の刺戟に堪えんや又明治政府が從來幾多の失政を犯し議會も亦粉〓、爲すなしと雖も國〓は知らず識らずの間に面目を改め殖産商工は次第に進歩して外國貿易も年々好結果を現わし恰も政治の外に獨立するものゝ如し政熱に熱して政府を攻撃する者より云えば今にも國家の傾覆を來すが如くに云做すことなれども政局の如何は國家殖産の爲めに左程著るしき毒ともならず又薬ともならず要は國民自働的の能力如何に在ることなれば吾人民は唯宜しく此能力を鼓舞して他に依頼する未練を避け敢爲勇〓以て發〓を圖るこそ本分なれ苟も此本分を怠るときは即ち國の自働力そ損する譯にして深く戒めざる可からずと雖も〓て實際を窺えば惜む可し積年官風に撫靡せられ所謂御上の恩威に感服したる結果として今に至り一事業を企てるにも動もすれば政府の保護を頼み若くは一切公力に托せんとして自家自働の任を忘却するが如きもの〓〓して少なからず然るに今や其公力は政府と議會と相爭い空論日を〓うするよりして毫も以て恃むに足らざること前記の如く而して國際の競爭ますます甚だしきこと前記の如くなりとすれば頼む所は唯一の自働的能力あるのみ左れば政府及び議會は必ずしも人民の殖産に助力することを爲さずして之を其自働に一任し人民の眼中には政府を見ず議會を見ずして政局の〓動を自由ならしめ双方直に相互に干渉せずして間接に相依頼し殖産の〓歩と共に政權の強大ならんこと我輩の冀望する所なり