「民論亦愛す可し」
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時事新報に掲載された「民論亦愛す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
民論亦愛す可し
〓〓の政客が常に激論して政府に反對する其目的は唯當局者を〓むる手段に〓ぎず明日にも其手に政權を握るときは論〓忽ち一變して温和着實の方針に向う可し民論本來〓〓に非ず深く憂るに足らずとの次第は前日の紙上にも之を記したり盖し在野の政黨が〓激無責任の説を主張して時の政府を攻撃し唯その〓〓失策を見出す一方に汲々たるは世界中何れの國に於ても珍しからぬ事例にして政府の當局者に取りては實に〓惑千萬なる次第なれども更に眼界を廣くして國家全體の爲めに利害如何を考えるときは其攻撃論も亦實際に大効なきに非ず凡そ政府なるものは全體の組織廣大にして事務繁雜なるが爲めに部内の監督甚だ容易ならず動もすれば種々樣々の〓〓を生じ就中冗員冗費の〓加は恰も固有の病〓にして之が爲めに空しく國財を失うのみならず却て政務の〓〓を致して〓に復た〓う可からざるに至ること少なからず之を名づけて政府の〓〓と云う畢竟するに當局の人々が政府〓〓の利害と自家一身の利害とを別々に思い恰も雇人の主家に於けるが如く俗に云う奉公人根性を以て政務を〓いながら序でに無益の感〓をも弄ばんとするが故に斯る不始末に至ることなれども去りとて豫防の爲めに法律を設けて之を監督せんとするも誠に不都合なるは〓〓〓を實行して監督の任を〓す可き官吏も亦共に是れ〓敗中の人なれば更に之を監督する者なかる可からず而してこの第二の監督者と雖も亦同じく他の監督を要するものにして監督又監督〓に際〓ある可からず即ち單に法律の力に依頼して〓〓の弊〓を改めんとするは到底實際に行われ難き所なりと知る可し然らば則ち彼の固有の病症たる腐敗を防ぐには如何にして可ならん歟と云うに唯在野教育の反對論あるのみ或は之を評して立憲政治特色の功德と云うも不可なきが如し抑も在野政黨の目的は唯取て代る一偏にこそ在れば何事に限らず些少にても時の政府の瑕〓を見出して之を非難する口實を〓り他を妨げて自から利せんとする其一方に於て政府の人は又反對黨の爲めに自家の落度を見出され爲めに幾分か名聲信用を害せられて地位を危くする掛念に非ざれば〓して油斷す可からず其良心の如何は扨置き兎に角に他の攻撃を〓けんとして自から明にし雙方互に自家一身の私利を目的として相爭う其間に自から政府部内の改良も行われて結局國民一般の利益たる其趣は恰も商店の番頭二人が互に相嫉んで他の失行を見出さんことを勉るが爲めに金庫の錢は却て安全なるものに異ならず或は立憲國の政府をして〓〓潔白ならしむるものは在野黨の嫉妬心なりと云うも〓言に非ざる可し現に我國にても議會開設以來攻撃の甚だしきが爲めに政府は年々歳々次第に會計の法を愼み復た前年の浪費濫用を見ず官〓全體に其面目を改めたるが如き明白なる事實にして政客嫉妬の功德も亦大なりと云う可し
又一歩を〓め當局者の政略の爲めに謀りても外に政敵あるは内の結合を固くするのみならず我國の如き〓實政府に於ては民論の攻撃を利用して部内の整理を斷行する辭柄〓を得べし例えば現政府の内に蟠まる年來の弊事は當局者に於ても之を知りながら之を除く手段に窮したることなれども立憲の體面の爲めに民論に從わざる可からずと云へば其立言に多少の重きを置かざるを得ず即ち〓般伊藤首相が議會に對して來期の開會までには必ず整理の事を行う可しと約束したるも其心算は必ず民論を利用して〓生の素志を〓せんとする政略なる可し其政略の果して今日に〓す可きや否やは別問題として兎に角に在野政黨の議論は國事を破壊するものに非ず却て間接に之を理する媒介たるを知る可し民論憎む可からず愛す可きなり