「・政府の方針知る可きのみ」
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時事新報に掲載された「・政府の方針知る可きのみ」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
・政府の方針知る可きのみ
近來政府にては部内整理の爲めとて行政整理委員又は海軍整理委員など種々の委員を設けて熱心に從事する其結果は如何と云ふに即ち政費節減の實を擧るに外ならざる可し抑も政費節減論は民閒の政客が年來政府に對する唯一の口實にして實際の難問題なりしに然るに今の當局者は一も二もなく之に同意し民論に對して固き約束を爲したる其約束の旨に從ひ只管實を擧ぐるに餘念なく單に今回の改革談のみならず昨年來の始末を見ても彼の地價正の案を議會に提出したるが如きは政府自から民論の先陣を勤めたるものにして一見或は怯なるに似たれども其己れを虚ふして他に逆はざるの精神は却て大膽なりと云はざるを得ず、或は民論の過激なる軍艦製造費を否決したるが如き如何に政府の温順を以てするも斯る極點までは順ふことを得ざることならん其始末は如何ならんと餘所ながら掛念したりしに偶ま偶ま大詔煥發の爲めに局面一變して無難の經過を見たり大詔の煥發は偶然の出來事にして特に其困難を處するが爲めに非ざるはむろんなれども凡そ此前後の始末を見れば當局者の方針は自から明白にして虚心誠實只管民論に順ふの方針を執るや又疑ふ可きに非ず竊に聞く所に據れば今回の改革は非常の奮發にして彼の民黨が政府の豫算案に對して削減を試みたる所謂査定案の節減額は凡そ八百萬圓にして尚ほ世閒に急激の謗を免れざりしに今度の改革の爲めに減ずる所は或は査定案の上にも出づるならんと云ふいよいよ發表の上に非ざれば確かならざれども今の政府の方針に於ては隨分見らる可き決斷と云はざるを得ず斯くの如き次第にして民論地價の修正を望めば政府は自から先んじて其修正案を提出し政費の節減を唱ふれば更に非常の節減を行ふて査定案をして顏色なからしめんとす、着着民論遵奉の實を擧ぐるものにして今後の事も自から知る可きのみ即ち我輩の推測を以てすれば政府は自から其意見を定めずして都て民論の赴くまゝに方向を轉じ飽くまでも從順を守りて毫も逆ふことを爲さず而して民論いよいよ窮屈にして事實如何ともす可らざること製艦費否決の如き場合に至れば其次第を上奏して帝室の裁決を仰ぎ奉ることゝ覺悟したるものならん如何となれば既に自から意見を定めずして只管他に順ふの結果は勢かくの如くならざるを得ざればなり虚心平氣能く民意に順ふ中にも全く政權を手放して無頓着なるに非ずいよいよ國家の大利害に關し事急なる場合には帝室の裁決を仰ぎ奉るの覺悟なれば誠に無難の方針にして若しも内部よりして自から破裂するの憂なきに於ては當分の處政府の地位も先づ以て安全なる可し下に處するの手段としては決して拙なるものに非ず我輩は當局者の爲めに安全の計を得たるを賀せんとするものなり