「政黨の主領黒幕内に蟄する勿れ」
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時事新報に掲載された「政黨の主領黒幕内に蟄する勿れ」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政黨の主領黒幕内に蟄する勿れ
我國の政海中諸〓の黨派ありて自由黨と云い改〓黨と云い或は國民協會と云い或は離れ或は合い各〓の黨議を執て互に意見を殊によることなり其黨議の得失、意見の利害の如き我輩の關せざる所にして固より局外者の是非すべきにもあらず或は今日は政黨は唯其名目を殊にするのみにて各黨の主義の如き恰も流動不定の有樣に在て未だ凝結固形の域に〓せず迚も歐米政黨の整然たる者に比すべきにあらず〓の〓もあるべしと雖も我議院開設後、日尚淺く僅に第四議會を經て幾多の經驗を積まば自から其〓すべきに〓し成長すべきに成長して或は歐米の政黨を凌駕する期もあるべし更に憂慮すべきにあらずと雖も唯其外形の上に於て我輩の大に各黨の首領に望まざるべからざる所のものあり即ち其希望とは別議にあらず各黨の首領自ら〓て議員となり親しく議會に出席して黨員を指揮し以て自から其責に當るべき一事なり抑も今の内閣を組織する重なる人々は前年松方内閣の時に當て所謂黒幕の位置に立ち隱然政府の實權を掌握して其政略を左右しながら（然らざれば隱然これを妨げながら）尚身を局外に〓けて責任を他に負わしめたる者なり當時世の識者は機敏にも其所爲の卑劣なるを咎め頻りに其非を論じて止まず〓に彼の人々をして安全なる黒幕の地位を脱し公然今の内閣を組織せしめたるは偏く世人の知る所なり然るに今の政黨の首領たる人も亦自から一種の黒幕内に居て公然首領の地位を占め自から實權を掌握して黨略を指揮しながら尚其身を安全なる地位に置て物外に超然たるは抑も何も理なるや或は假令ひ親しく議員となりて議院に出席せざるも己に其首領たる實權を執りて黨略を總理する以上は今更ら院の内外を問うべきにあらず唯今日の儘にて差支なしとの〓もあらんかなれども其實は兎も角も其外形上に於て何分にも滿足すべからざる所以のものあり院中自から有爲の後〓者あり知名の老練者あり黨略の掛引上〓して不自由なかるべしと雖も院内の議論沸くが如くにして粉々〓々の際には一擧手一投足の微も忽諸にすべからず一言片語も輕卒にすべからず毫厘の輕擧、爲めに幾年の患害を〓す時に當り機を察し變に應じて能く其輕擧を制し粉〓を靜むる者は之を各黨首領の力に任ぜざるべからず固より黒幕内の打合を以て豫め院内に於て掛引を定むることを得べければ自から其席に〓らざるも差支なきが如くなれども所謂臨機應變とは豫め推量すべからざる時の要用にして院内に粉〓の生ずるが如き多くは思寄らざる塲合に於てすること〓徃の事實に照らして明なり又世間には我衆議院の言語論調高尚ならざるを難じて之を種々の原因に歸する者ありと雖も我輩の所見を以てすれば其重なる原因を院内元勲の人に乏しきが爲め後〓の靑年輩が勝手次第に言わんとする所を言い演べんとする所を演べて敢て他に憚る所なきに歸せざるを得ず左れば今各黨の首領なる明治の元老輩が各袖を連ねて議院に列し自から黨員の擧動に〓目して親しく其演ずる所を聞き微妙云うべからざる際に何となく自から重きを持して衆員の輕擧を戒むることもあらんには議院の氣風自から高尚ならざらんと欲するも得べからず又之を〓徃の事實に徴するに院内議論の喧しきは敢て重要なる主義問題の衝突にあらずして多くは單に言葉の行〓等其何れに〓するも左まで利害に關せざる枝末の事よりして思わず議論に花を〓せ啻に無用の時間を費すのみならず爲めに議會の體裁を損して識者の批〓を招くことあり斯る塲合いに於ても各黨の首領が現に議席に在れば咄嗟の間に粉〓を調和すること容易なるべし盖し其首領なる者も今日こそ事の行掛よりして互に敵となり味方となりて公然其主義を爭い〓を削ることなれども舊時を顧れば互に無二の政友にして互に手を携え心を一にして王政維新の大業を成したる人なり伏見の夜雨、奥〓の秋風〓風沐雨辛苦を共にし春花秋月歡樂を同ふしたる其〓は忘れんとして怠るべからず人生の交際、至親至密の妙處は此邊に在るのみ去れば〓もなく由緒もなき各派の黨員を會し其爭〓を調和せんとして至極困難なる塲合にも各首領が互に胸襟を開て面〓し一言の下に事を圓滑に結了すべきは敢て疑を容れざる所なり又今の内閣は所謂超然主義なるものを執て成るべく議會に〓ざかり敢て之を度外〓するにはあらざれども其擧動或は深切ならざる形跡あるが如し然るに昔時の政友たり同僚たる各黨の首領なる者が自から奮て議會に列し着々政府に對して意見を陳べ疑あれば之を質し理あれば之を辨じ輕卒に流れず執拗に失せず引て放たず放て〓らざる勇勢を示さば彼等も亦超然たるを得ずして自から議會に重きを置くに至る可し我輩は飽くまでも其出身を勸告するものなり或は今の各黨の首領は維新の〓より多くは武を以て身を〓したる者にて〓時文明の文に〓わず隨て推理演〓の如きは尤も其短所なれば若しも自から議席に列して後〓の靑年と論鋒を交えることあらば或は思わざる不覺を取て爲めに黨勢を損し一身の名聲を失う憂あり寧ろ今の如く身を幕内安全の地位に隠匿し後〓者を木偶の如く使役して以て之に言わしめ之に語しむるに如かずとの〓もあらんかなれども人の輕重は言の多少に由て〓すべからず啻に其多少に由らざるのみならず却て利口〓辯他の厭惡を招き寡言沈黙人に愛せらるゝは世の常態なるが故に果して實際其事に當らば或は思半ばに〓ることある可し或は又假令ひ自から勇を鼓して〓む覺悟あるも有位有爵の身分として親しく衆議院に出るは法律の許さざる所なりとの〓もあらんかなれども是れは自から〓壁を築て之に匿るるの〓辭なり新華族新爵位の事に付ては本紙上に於て毎度これを論じたるが故に今復た爰に喋々するを要せずと雖も此無用なる爵位の爲めに〓〓の自由を束縛さるゝとは實に驚入りたる次第なり此機失うべからず宜しく〓に之を奉〓して以て昔日不〓の身となるべし之を奉〓するは〓履を捨つるよりも猶易し男子事をなす豈區々たる爵位の爲めに身を屈するものあらんや彼の英國自由黨の首領グラツドストーンの如き屡々〓爵の内命を蒙ると雖も固く辭して受けずと云う英國全體の氣風爵位を貴重する土地に養われながら尚之を辭するは甚だ奇に似たれども一度華族に列するときは復た下院に席を占むるを得ず氏の技倆を施す所は下院粉〓の中に在て上院靜閑の處にあらず〓位を得て却て實際の權力を失う憂あればなり我各黨の首領も亦宜しくグ氏を學で無用の爵位を奉〓し身を自由の境界に置き勇〓奮激身を躍らして粉〓沸くが如き公塲に出づべきものなり徒に安全の地位に隱れて〓怯なり未練なりとの世〓を招くが如きは諸君の爲に謀りて取らざる所なり