「鐡道の專權」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「鐡道の專權」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

鐡道の專權

京濱鐡道の繁昌を以てして日々發車の度數は午前六時より午後十一時迄の間に各々十七回に過ぎず即ち凡そ一時間に一回の割合とは實に驚入たる次第にして公衆の不便迷惑一方ならざれば速に改革して發車を〓加するか否らざれば線路に並行して新に私設鐡道を許可する可し目前實際の急〓なりとて我輩も〓に之を詳論し又この鐡道を利用する人々は何れも異口同音に唱える所なれども鐡道廰は一向に平氣にして多年來未だ之に就て何等の議ありとしも聞かず公衆は日々これに苦められて其都度當局の緩慢を想い起し心緒亂れざらんと欲するも得べからざる有樣なれば爰に我輩も筆鋒を進め鐡道專權の實例として眞正面より一言する所なき能わず前日も述べたる如く鐡道をして專有の姿を成さしむるときは其會〓の私利の爲めに天下人民の利益幸〓を〓〓せらるゝ惧なきにあらざれば何れの國にても鐡道會〓の勝手次第に營業することをば禁止して以て〓會公衆を保護する策を取らざるはなし是れぞ鐡道監督法の常則として何人も認むる所なり凡そ商賈上に專有の權を恣にするは鐡道會〓より易きものはある可からず會〓が一線路を專有して他に競爭の懸念なければ運賃を高くし取扱を粗にし或は公衆が毎五分時乃至十分時の發車を需要するにも拘わらず毎一時間の發車を供給して氣樂に利益を占るも乗客荷主は之に對して訴る道なきものゝ如し唯諸外國の風習は此專權の利を許さず與論蝶々其不都合を責めて止まざるが故に會〓に於ても止むを得ず世間の希望に應ずるのみか年々歳々理事法を改良して人氣に投ぜんことを謀り其改良の速にして頻繁なるは往々人の耳目を驚かすもの多しと云う然るに我京濱鐡道は明治五年創業以來年を閲すること二十二、當時に生れたる赤兒は〓に生長して丁年以上の人となりしに鐡道の理事法は恰も生れたるまゝに依然として舊〓を守り殆んど改良の〓なしとは誰か聞いて驚かざらんや〓んや〓會進歩の速力は赤兒の生長にも優るありて随て人事の繁劇なる汽車も猶ほ遲しとするに於てをや萬般の改革遥かに後れたりと云う可し或は其改革も目下の會計上に行われ難しと云へば稍や恕す可きなれども假りに京濱鐡道の會計を獨立のものとして前年設立の公費と目下の純益とを計算したらば日本第一の線路にして公費の非常なりしにも拘わらず其割合は必ず豊なるものならん會計に差支なくして改革は不可なりと云うか專有壟斷の甚だしきものなり若しも此事をして私設鐡道の所爲ならしめんには政府の筋にては必ず之を不都合なりとして彼是と干渉を試ることならん或は然らずして爾餘の官有線又は今後敷設す可き官私の鐡道が悉く右の筆法に倣いて公衆の便益を度外〓することあるも捨てゝ顧みざるの意か斯の如きは則ち日本の鐡道には監督法なきが如し文明世界の事に非ざるなり左れば政府に於ても此處は特に猛省を加えて改革を斷行し發車の度數を〓し速力を進め又賃錢の割合をも低〓す可きは當然なれどもいよいよ緩慢に附するに於ては是非に及ばず斷然一線の新鐡道敷設を許可して其專有の權を割與するを辭す可からず如何となれば當局者の所爲たるや今の鐡道のみにては到底公衆の便利を圖ること能わずと云うに等しければなり且つ我輩の新線敷設論は〓して架空の談にあらず現に東京に中央停車塲と稱す可きものは未だ設立に到らずして其道の人の説によればイズレ丸の内の地を卜して設けらる可しという然るときは之より赤坂區を横ぎりて現線路よりは少々山の手を取り程ヶ谷に出でゝ横濱に至るに沿道處として鐡線の通過に可ならざるなし立派に成立つ可き營業にして一旦許可をさへ得れば其許可と同時に資金の募集に心配なきは我輩の敢て保證する所なり京濱鐡道の當局者にして若しも業務の改革に〓しとならば強いて勉強するを須ゐず公衆の便利を圖る者は他に幾多の人ありて存するなり萬一是も不可なり、彼も不可なりとて聽入れざるか我輩は之を評して無理と云うのみ斷じて尤もなりと云わざる者なり