「鐡道の競爭と專有」
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時事新報に掲載された「鐡道の競爭と專有」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
鐡道の競爭と專有
〓來全國各地より鐡〓の私設を出願する者陸續絶えざれども政府に於て兎角に之を許可することを欲さざる其理由の重なるものなりと云うを聞くに人民の請願に任せて漫に許可を與えるときは〓に鐡〓の便ある地方に新線路を敷設し新舊兩線の間に競爭を生じて結局双方の不利益と爲ることある可しとの掛念に外ならざるが如し鐡〓計畫者に對して如何にも深切を〓したる計にして當局者の好意謝す可きに似たれども今日我實業上の實際より見れば其好意こそ即ち俗に云う難有〓惑にして人民に於ては一應の謝辭を〓ると共に其好意の〓を返上せんと欲するものなり如何となれば目下我國の鐡〓事業に關して恐る可きは競爭に非ずして寧ろ專有なればなり國中の鐡〓〓歩したりと稱するも延長〓に千七八百〓に〓ぎず之を〓千萬の人口に割合〓れば人口二萬に付き鐡〓一〓にも足らざる〓なり誠に微々たる者にして歐米諸國の盛況に比すれば〓より明日の談にあらず(米國にては凡そ四百人に付き一哩、英國、獨〓、佛蘭西、等にては凡そ二千人に付き一哩の割合なり)左れば今の鐡〓組織を見て競爭の弊を氣〓うは恰も雨餘の河流〓るゝときに水田の水喧嘩を恐れ、一家洗うが如き貧乏人が盗難を憂うるに等しく先ず以て餘計の心配と云うの外なし競爭の生ずるを〓慮して人民自由の〓業を許さざれば鐡〓理數の〓加を妨るは無論在來の鐡〓營業者をして專有の權を恣にせしむるは必然の勢にして〓般來毎度時事新報にも論じたる如く官私鐡〓が其營業方を等閑にして人民一般に不便を感ずるは〓う可からざる事實にして營業者その人に於ても此有樣に滿足する者はなかる可しと雖も曾て〓意の樣子なく甚だしきに至りては漫に〓費〓〓など稱して無用の役員を沙汰すると同時に有用の人物に給料を〓じて〓怠ならしむるか然らざれば第二流三流の人を用いて貴重の事を任じ線路の修繕を怠り列車の改良を思わず〓搬方の不行届をば餘處に見て唯目前に〓入の錢を多くし配分益の割合を高くして株式の相塲を騰貴せしめんことを謀り會〓の役員にして鐡〓理事の業と投機射利の業と〓帶する者さえなきに非ず言語に絶えたる次第にして公衆の不便は扨置き危險の程も計られず畢竟他に競爭者もなく又他より咎めらるるの心配もなきよりして自然に斯る惡弊にも陷ることなれば政府に於ては船舶その他諸器械塲を監〓すると同一の法に從い鐡〓會〓に對しても會釋に及ばず其取締を嚴重にして公衆の安全を保護するこそ肝要なれ然るに政府の筋の取締と干渉とは誠に粉らわしく所謂厚き御趣意の取締も忽ち變性して入らざる干渉と爲り當業者の〓惑を感ずるは從來珍らしからぬ事例なれば北海〓鐡〓の如きは〓中の單獨線にして當分は競爭の手段なきが故に政府の監督に任じて嚴重に取締るの外なけれども内地に至りては則ち然らず競爭線を自由にして各會〓相互に自から警しめ以て自然の〓意を促す法ある可し我輩が今日の時勢に必要と認むは唯この一法あるのみ然りと雖も鐡〓の競爭永〓に無病なるに非ず其甚だしきに〓すれば種々樣々の弊を生じ投機の計略、〓着の手段、公益を犠牲にして私を營む沙汰さえなきに非ざれども是れは鐡〓擴張の極に至ること米國の如き國柄にして然るのみ我日本は今日こそ始めて敷設の端を開きたることなれば此種の惡弊は實際に於て容易に〓る可きに非ず若し或は自由敷設の盛にして宣しからざる徴候も現われたらんには其機を察して自から豫防の〓もある可し兎に角に目下の事態に於ては我輩は唯鐡〓專有の弊を厭うのみにして未だ競爭の客を見ざるが故に假令一時の方便としても自然の競爭を利用して時弊を矯正せんと欲するものなり