「水道地祭式」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「水道地祭式」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

東京市會にては水道工事の着手に付き水道起工地祭なるものを行ひ多數の賓客を招待して

工事の現塲を縱覽せしむるの議を决し不日執行の筈なりと云ふ誠に些細の事ネなれども我

輩は市會の面目一心の兆候として同情を表せんとするものなり抑も市會とは市民を代表し

一市に關する諸種の事を議するものにして平たく云へば東京市民一般の相談會に過ぎざる

ものなれば今の市制にて許す限りは如何なる事を議するも差支ある可らず府下の人事の多

端なると共に議す可き事も亦多端なる可きに從來その會の趣を見れば法律權利の談頗る盛

にして理事者に對して瑣々たる權限を爭ひ動もすれば他の揚足を取るなど兒戲に似たる無

uの擧動少なからず先頃中水道鐵管の事件に就ても管に刻する文字とか紋形とか云ふ其喧

嘩よりして參事會員の總辭職を促したるが如き即ち其一例にして我輩の餘所ながら苦が苦

がしく思ひたる所なるに然るに今回は前日の無粹なる擧動に反し同じ水道の事に關して斯

る議决に及びたるを見れば市會の人々も自〓〓省みて聊か悟る所ありたるものと認めざる

を得ず或は斯る事ネに市費を支出するは無uなりとの異論もあるよしなれども或議員の唱

へたる一個人の家を建つるにも棟上式又は地鎮祭などして〓〓を祝することあり水道工事

の如き大事業に〓〓〓を行ふは適當なり云々との説は實に市民の心を〓なるものにして東

京市民は斯る目出度き〓〓〓僅かの金を惜しみ強いて社會を窮屈にして自から喜ぶ如き殺

風景の人民に非ざるなり西洋文明の諸國にては都市の人民が其都市の名を以て有功有コの

人に對して名譽の贈譽を爲し又は外國の貴賓などを歡迎するの習慣あり法律權利の外に餘

裕を存して自から文明市民たるの本色を見るに足ることなれども我國に於ては曾て是種の

事例なきのみか先年米國の前大統領グランド將軍來遊の折、府下の有志者は府民總代の名

を以て之を迎へんとしたるに一部の人々は名稱濫用云々の議を唱へて之に反對したること

さへありたりき今度の市會の决議は實に空前の思付にして其事は小なりと雖も思想の一變

を徴するに足る可し聊か一言して同情を表し今後の望を屬するものなり