「貨幣制度調査會」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「貨幣制度調査會」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

貨幣制度調査會

の規則は此程發布せられて會長以下二十名の委員も此に定まりたれば何れ取敢へず調査に着手することならん近時金銀價格の變動は實に世界の大事件にして殊に〓〓の如きは其影響を蒙ること非常なれば其原因結果を〓〓して我經濟上に及ぼすの利害を研究し隨て之に〓するの方法を〓ずるは素より必要にして政府にて從事す可き正當の〓にこそあれば調査會の設は我輩に於ても素より賛成のみならず寧ろ其事の遲きを憾みとす〓〓の次第なれども抑も金銀價變動の原因結果を調査して之に對するの方法を講じ我國現行の幣制を改正す可きや否やを决するに至りては至重至大の問題にして實に國家百年の利害に關係の大事件にこそあれば其事たる决して容易ならず或は其調査の結果は必ずしも直に實にす可き者に非ず採否の權は自から當局の責任者に存することならんと雖も兎に角に斯る大問題を調査するに今の如き組織にして果して實際に效能ある可きや否やの點に就ては疑なきを得ず會の規則を見るに調査審議す可き事項は「變動の原因及び其一般の結果、變動の我邦經濟上に及ぼす影響、其變動は現行の幣制を改正す可き必要あるや否や若し之ありとするときは新に採用す可き貨幣本位并に其施行方法」の三項なり其事項は先づ是れにて可なりとして其委員の如きも今の社會に學者經驗家として名ある者を擧げたることなれば其人選も亦不可なきが如くなれども扨其委員が其事項を調査審議するに如何なる方法に由るものなるやと云ふに是れは規則の明文はなけれども矢張り從來の土木會議其他の委員會と同樣にして只その二十名の委員が相會して調査審議に從事し其多數の决議を會の意見として當局者に具申するに止まることならん我輩は曾て委員組織の事に就て當局者の注意を促し今の委員組織は英國にて所謂コンミツチーと同樣の仕組なれども其組織權限は全く異にして恰も一種の諮問會とも云ふ可きものなれば充分の效果を望むことは到底難かる可しとの次第を述べたることあり(本年七月二十五日の社説)土木會其他の如く事體の小にして關係の大ならざるものは假令ひ諮問會の體裁にても之なきに勝ること萬萬にして必ずしも多を望まざることなれども貨幣制度の問題に至りては其利害の關係容易ならざること土木會の如きものと比較す可きに非ず隨て其調査審議の方法も亦その備はらんことを望まざるを得ず委員の人人は何れも其粹を拔きたるものにして其人物に就ては敢て異議なき所なれども苟も金銀價變動の原因結果を調査し國家百年の利害に關する貨幣制度の事までも研究して會の意見を决するからには之を實にすると然らざるとは兎も角もとして内外の智識經驗を集めて反覆丁寧審議の上果して至當と認むる所に歸着せしめざる可らず而して之を爲すには委員の人人が親から印度もしくは米國に出張して近時の變動の事情を探究するは勿論、國内に於ても商賣家實業家を始めとして貨幣の事に關して經驗ありと認むるものは充分に其意見を陳述せしめて調査の材料に供する等、恰も各個人の意見陳述を締上げて一個の成案と爲すが如き心得にて始めて眞成の結果を得べきなり今度の調査會の組織は果して斯る手段を盡すの精神なるや否や或は其組織は只委員中の議を决するまでにして廣く智識經驗を求むるの手段なしとならば須らく其規則を改正して委員の權限を擴張し調査の自由を大にす可し若しも然らざるに於ては折角の調査會も寸效を見ざるに終らんこと我輩の疑はざる所なり