「關税法の改革」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「關税法の改革」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

關税法の改革

          合衆國下院議員

              マクミリン氏原文

吾れ吾れ米國人民は千八百九十年の關税法を實際に試みたること爰に三年に及べり當初該法を編成したる人人の目的は此法律を以て政府の收入を増加せんとするに非ずして製造業者を保護せんが爲めなりと公言するを憚からざりし程の次第にして我米國の歴史上此の如く割合の高き海關税の行はれたる例は未だ曾て聞かざる所なり抑も米國の海關税は三十年來次第次第に高まりて其極遂に現法律の實施を見るに至りしものにして千八百六十一年に政府が始めて保護税を賦課したるは唯南北戰爭の入費を償ふが爲めに一時臨機の政略として之に依頼し戰爭の濟み次第再び平常の税率に復す可しとのことなりしが扨て其後間もなく戰爭は終を告げたれども關税は更に改まらず唯曩に之を増進すると同時に特に製造業者に賦課したる内國税を廢止したるのみ千八百七十二年に至り諸物貨の輸入税を一般に一割丈け■(にすい+「咸」)削したることあれども數月を出でずして相當の理由もなく再び元の割合に改めたり共和黨は始めより斷へず關税改革の事に力を盡したれども何分にも合衆黨の勢強くして其目的を達することを得ず千八百八十七年大統領クリイヴランド氏は國會に授る教書の中に關税改革の必要を論じて其斷行を促したれば下院の改革派は之に力を得て遂に彼のミル案を可决したれども惜いかな上院に多數を占めたる合衆黨は一も二もなく之を廢棄して共和黨の折角の苦心を水泡に歸せしめたるこそ是非なけれクリイヴランド氏の任期滿ちハリソン氏代て大統領に撰ばるるや世は再び合衆黨の天下と爲りたれば彼等は此機に乘じて從前曾て例しもなき非常に嚴刻なる關税法を造り出さんとの决心を起し普く國中の大製造家を集めて諸物貨の輸入税表を作らしめたり兼て自家の利益を見るに敏なる實業者が斯の如き營利の好機會を授けられて如何でか躊躇す可き何れも皆自家の製造品を保護して海外の競爭を免かれんと欲し何の斟酌もなく漫に輸入税を高くして茲に一の關税割合表を作りたり之を修飾して法律の形と爲したるもの即ち現行のマツキンリイ法なり殊に婦人服に係る一章の如き現に米國中にて最も手廣く該品の製造に從事する者の一人が親から之を起草したることは普く人の知る所なり右の如き次第にて今日の關税法は自から直接に利害を感ずる者共が相集り唯一圖に自家の利慾を滿足するの目的を以て編成したるものに外ならざれば之を實際に施して人民一般に非常の迷惑を及ぼすは今更ら驚くに足らず盖しマツキンリイ法の行はるる前には諸物品の輸入税は平均原價の四割なりしに同法施行後は殆んど六割と爲れり合衆黨の議員等は製造品の關税を高めて價を増進するときは第一に農民が其使用する器具などに餘計の錢を費して然も作り上げたる穀物の相塲に變なきが爲め大に收入を■(にすい+「咸」)ず可しとの苦情あらんことを察し其口を塞がんが爲めに毫も輸入品の競爭なき麥及び其他の穀類に高き關税を課したり是れ固より彼等が人民を瞞着するの手段に外ならざれども世間誰か斯の如き淺墓なる謀に欺かるる者あらんや

千八百九十年に合衆黨の造りたる關税法は大略右に述べたる如くにして今日共和黨は之を改革するの任に當る者なりマツキンリイ法の發布以來三年の間に此法の効力として賃錢を進められたる勞働者とては合衆國中に唯の一人もなきのみならず此三年間の不景氣は北米建國以來未だ曾て見聞せざる所の慘状を呈したるものなり國中無數の工塲は陸續閉鎖し製造機械は運轉を止め勞働者は職を失ひ賃錢を■(にすい+「咸」)ぜられ土地家屋の價は低落し銀行會社は踵を接して閉店若しくば分散する等その有樣は筆紙の能く盡す所に非ず如何なる種族の人にても米國の事情に注目する者は皆この事實を認めて災害の大なるに驚かざるはなし而して此大恐慌の原因に就ては人人自から見解を異にすれども苟も公平の眼を具ふる者は彼の無法なる關税法こそ其一大原因たるを承認せざるはなかる可し又如何なる保護論者と雖も課税を重くしたるの一事が右の不景氣を救助するの効ありしと信ずる者はなかる可し昨年の撰擧に共和黨が大勝利を得たるの結果として今日の厭ふ可き關税法を改正するの義務は端なくも同黨の責任に歸したり同黨は二十五年來只管關税の低■(にすい+「咸」)に盡力し來り今日圖らずも政府の全權を握りたれば此際决して躊躇することなく斷乎として其素志を貫かざる可らず又貫くに相違なしと余の確信する所なり此時に當りて若しも共和黨が關税改革を斷行せざることもあらんには是れぞ即ち人民の希望に背くものにして其托されたる信用を無にするものと云はざるを得ず米國は獨逸、佛蘭西などとは異なり國の富源非常に大にして年年國民の消費する量よりも遙に多額の物品を産出するを以て何は扨置き其産出物をば廣く世界に賣捌くの工風こそ最も肝要なれ關税を高くして内國製造品の價を騰貴せしむるが如きは物品販賣の區域を弘むるの路に非ずと知る可し

目下財務委員會にては關税問題に就て事實調査中なるが製造者は頻りに之に向て何事をも爲すなからんことを忠告し又世間一種の新聞紙は相變らず税法の改革を蛇蝎の如くに嫌忌し口を揃へて關税に干渉するの非なるを主張せり然れども彼輩の云ふ所などは固より取上るに足らず共和黨の人士は此際大に决心して關税を改正し單に政府の歳入に必要なる點までに引下ぐ可し而してその■(にすい+「咸」)削は生活の必要品に最も大にして奢侈品には少くす可し又一切の原料品は之を無税と爲し以て我製造者をして世界と競爭するに易からしむ可し又諸般の事業に對して政府より保護金を給することを廢止す可し何となれば政府が租税を徴收するの目的は之を以て政治の費用に充てんが爲めにこそあれ國民の一部より錢を取立てて他の一部の人に與ふるが如きは政府の爲す可き所にあらざればなり之を要するに政府は先づ關税を相當の割合に定め其餘に必要の國用金は之を内國税に課することと爲して差支ある可らず今日租税を増加せんと欲せば酒税なり又遺産税なり大に取立てて妨なき税源は尚ほ甚だ多し决して心配するに及ばざるなり

 右米國にて海關税を■(にすい+「咸」)ずるの説は目下共和黨の政府に於て或は實施を見ることある可し同國に關税の負擔を輕くすれば日本の製産品を輸入するには甚だ好都合なれども又一方より考れば同國の絹布機業者は外來の絹布に保護の重きを利して營業せしに一旦その税率を低くして輸入品を招き之が爲めに自國の機業を衰頽せしむることもあらば隨て日本生絲の爲めに好市塲を狹くすることはなかる可きや我生絲商の一考す可き所なり但し米國の機業者は今日既に十分の熟練に至

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