「・議院の進退如何」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「・議院の進退如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

・議院の進退如何

衆議院にては議長の不信任を議決したる末かゝる議長を薦奏して勅任を辱ふしたるは臣等不明の致す所なり云々を上奏に及びたる處、上奏の主意は議長の更迭を請願するに在るか議院自から其不明を謝するに止まるか更に院議を盡せとの御沙汰ありしを以て直に院議の上、不明を謝し奉るに止まる旨を再奏したるよし素より左もある可きことなり議長の更迭は議院法の明文もありて漫に親裁を煩はし奉る可らざるは勿論、議院自から其人を薦奏して勅任を辱ふしながら未だ二年も經過せざるの今日に至り其不信任を云々するとは實に相濟まざる次第なれば自から不明を謝し奉るの外ある可らず左れば議院の上奏は陛下に對し奉るの謝罪状と見て差支なしとして扨議院の多數が議長の不信任を議決したるは其品行上に看過す可らざるの不都合ありて斯る人物をして議長の席に在らしむるときは帝國議會の體面を損し議事を妨ぐるが故に其職に在ることを欲せず即ち斯くの如き人物とは議場に竝び立つ能はずとの精神に外ならざれども議長の一身より云ふときは身に覺えなき事柄の爲めに容易に多數の感情に從て進退を決するときは恰も其事柄を實にして自分は果して不正不義の者なりと自から表白するに等しきのみか天下公衆に於ても實際に之を信じて疑はざることならん實に人閒の生命にも換へ難き名譽を損して今後假令ひ生理上に死せざるも社會上の生命を斷絶するの結果にも至ることなれば此處は容易に進退するの場合に非ず苟も名譽を重ずるの觀念ある以上は必ず退かざることならん果して然らば不信任の議決を爲したる議院の多數は如何す可きや既に議長の所行を咎めて之と竝び立つこと能はずと議決したるのみならず陛下に對し奉りては自から不明を謝し奉りたる程の次第なれば事茲に至りては其儘にて濟む可きに非ず聞く所に據れば昨日の會議にて議長を懲罰委員の審査に付することに決したるよしなれどもいよいよ除名するには議員三分の二以上の多數を以てせざる可らず若しも其多數を得ずして議院の力を以て議長を放逐すること能はざるときは一總辭職の決議するか或は其決議に至らざれば議長の不信任を主張したる人々は自から辭職して自から潔ふするの外なかる可きのみ