「條約改正の目的は一日も忘る可らず」
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時事新報に掲載された「條約改正の目的は一日も忘る可らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
條約改正の成就は我國多年の宿願にして曾て一日も吾人の胸裡に往來せざることなく政府にても從來種々に手段を盡せしかど今猶ほ希望を達するの運びに至らずとは誠に遺憾至極の次第なれども深く其原因を推究するときは二千餘年の鎖國を恨むの外なきことなれば唯
心を用ゐ奄勵まして改正の速ならんことを祈る可きにして實力にして對等ならざる限りは假令ひ條約の文面を對等にするも其效なきや明白なれば此點に就て最も注意を加ふるこそ第一の要件なれども是れは間接のことにして今目の前に直接の急を云へば或は之を普通
の條理に訴へ或は之を雙方の不便に訴へ又或は年來の友情に訴へて外國をして表面上我が要求を拒むこと能はざらしむるの準備と手段を盡し苟も其手段となる可きものは一事も忽にせずして着々進歩するこそ即ち一日も忘れざる所以の極意なれ要は唯その進歩に際し斜めにｴして岐路に迷ふことなきに在るのみ彼の條約勵行論の如きも其拐~を改め單に改正の目的を達するの方便として自重の事實を示すに止めたらんには我輩も亦啻に反對せざるのみか國家宿昔の志を忘れざるものとして之を贊成するに吝ならざる可しと雖も其議論の過激にｴして却て宿願の目的を空ふするは呉々も遺憾なりと云ふ可し其詳細は他日の論に讓り更に眼を轉して近來我國にては如何に條約改正事業の爲めに準備と手段を講じつゝあるやと眺むるに彼の詩s論を外にしても間接に其談判の進歩を妨けて知らず識らず外人をして其談判を拒むの口實を得せしむるものなきに非ず例へば我輩が既に「必罰」と題して述べたる如く裁判所にて容易に證人を召喚し家宅を搜索して豪も人民の迷惑を意とせざるが如きは日本の實情に照しても甚だ不穩なる上に外國人の如き私權の發達したる國民に取ては之を聞いて誰か驚かざるものあらんや從來條約改正の進路に於て常に故障を受けたるものは重に法律の不完全云々に在りたりしが我法律の完全なるは以て文明ｩ國にも誇るに足る可く又これを執行する法官とても學識經歴ともに備りて率ねC廉潔白ならざるはなし殊に人文の程度は既にｺ川の時代に進歩の實を呈して外面の粗雜なるに引換へ内實の決して野蠻ならざりしは一々その例證に乏しからず我輩が力を盡して右等の眞面目を披露し外人をして復た故障の口實を置くに餘地なからしめんと勉めたるは天下讀者の知る所にして其意實に條約改正の方便たらんことを期したりしに斯る美玉明珠の打揃ふにも拘はらず裁判所の不注意なる封建時代の古人も亦敢てせざりし輕率の吟味を遂げ動もすれば輒ち證人召喚家宅搜索等に及びて心當りもなきに無uの騷ぎを沸騰せしむる樣にては我輩の苦心を無にするのみならず實に國家の大事を獏視すると云ふも亦敢て過言に非ざる可し此事たるや日本の文明に不釣合不適當として我輩の斷じて批難したる所なれども況して條約改正の準備と手段は一日も忘る可らざるの際に當りては一入遺憾の情なき能はず當路の反省を乞ふに特に切なる所以なり要するに裁判官にても國會議員にても我國民は擧げて條約改正を心となし大事を抱ゆる身の上を覺悟して一擧手一投足も注意あらんこと呉れ呉れも希望する者なり