「御結婚二十五年の御祝儀」
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時事新報に掲載された「御結婚二十五年の御祝儀」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
御結婚二十五年の御祝儀
昨日の官報欄内に記載したるが如く今度天皇皇后兩陛下御結婚滿二十五年の御祝儀を擧さ
せらるべき旨仰出され來る三月九日を以て其式を行はせらるゝよし伏して惟ふに立后の大
典以來兩陛下の御伉儷幾久しく變らせられず去る明治二十二年には立太子の御事あり今又
御結婚滿二十五年の御祝儀を擧させらる帝室の御慶萬萬歳、誠に目出度き次第にして吾々
臣民たるものゝ歡喜に堪へざる所なり扨その式とは如何なる御式なるやと云ふに我國の習
慣に於て結婚何年の祝儀とは曾て聞からざることなれども西洋諸國の如きは古來これを行
ふの風あり其式は結婚後五年、十年、十五年、二十年、二十五年、五十年、六十年の七回
にして各その名を異にすれども通例著しきものは二十五年の銀婚式と五十年の金婚式とに
して式を擧ぐる折には知己朋友の人々より贈物を爲すの例にして其贈物は例へば銀婚式に
は銀色によそへたる花環の類、又金婚式には同じく金色に見立たる品物を贈るなど一般の
習慣なれども富豪大家に至りては儀式も亦盛にして自から種々の趣向ある其中にも取分け
王室の盛式に至りては各國王室よりの贈物も多く國中の人民は悉く賀意を表して王室の萬
歳を祝する等その有樣は國中の大祭を見るに異ならずと云ふ即ち今度の満二十五年の御祝
儀は取りも直さず右の銀婚式とも申し奉る可きものにして殊に我國にては此回始めての御
式とあるからには外國人の如きは殊に注目を怠らずして或は各國の王室などにても此事を
漏れ聞くときは其國の習慣に隨ひ祝辭もしくは品物贈呈等の擧あるも圖る可らず斯る目出
度き折に際して吾々臣民たるものは如何にして祝意を表し奉る可きや從來に例なき御式な
れば祝意を表するの趣向も亦自から新ならざるを得ざれども我國に於ては高貴縉紳の人を
除くの外は帝室に對し奉りて直接に品物を献上するが如き從來の習慣に無きことなれば取
り敢へず府縣市町村又は學校協會の如き團體より總代の名を以て祝辭を奉るなど先づ適當
の趣向なる可きか或は又一個人にても世に類ひ稀れなる高齢の老夫婦などが自身の丹誠に
成りたる織物縫取の類を進献するが如き從來も其例に乏しからざることなれば斯る目出度
き御式の折などには特に御受納あらせらるゝことならんか兎に角に我輩は一般の臣民と共
に目出度く此御儀式を祝し奉り更に今後の二十五年を迎へ重ねて再度の盛式を祝し奉らん
ことを敢て期するものなり
尚ほ序ながら聊か一言す可きものあり我帝室にて是種の御儀式を行はせらるゝことゝとな
れば一般の社會に於ても次第に其風を傳へて銀婚金婚の式は今後一般の習慣を成すに至る
こと年を期して待つ可し即ち日本の儀式習慣等も次第に西洋文明の風に近くものにして内
外の交際ますます親密なるの兆として見る可し是れ又聖恩の餘澤として臣民一般の感謝す
可き所なり