「選擧の結果如何」
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時事新報に掲載された「選擧の結果如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
明三月一日は總選擧競爭結了の期日なり今回の選擧競爭を見るに地方に由りては多少の混雜を免れざりしも前回の時に比すれば概して穩かなりしが如し盖し政府が嚴正中立の精神にて干渉を試みざりしが如きも一の原因なる可しと雖も一般の選擧人も數回の經驗を閲して其事に慣れたると又一には其候補者たるものも度度の競爭に金を費して今日會計上の不如意かたがた漫に多勢の人を使用せざる等の事情もありて割合に穩に濟みたることならん兎に角に之を目して選擧競爭の進歩と云はざるを得ず扨選擧は終りたる處にて其結果如何と云ふに詳細の事情は未だ分明ならざれども一般の成行より推量して民黨多數の當撰は疑なかる可し從來民黨が政府攻撃の論鋒は地租輕■（にすい＋「咸」）經費節■（にすい＋「咸」）等單に消極的の一方なりしが作冬來遽に排外の熱を催ほして條約■（がんだれ＋「萬」）行等の説を唱へ第五議會も之が爲めに解散せられたる次第なれども今回の選擧も民黨多數とあるからには第六議會の議塲も必ず排外問題の再發を見ることならん政府の覺悟は果して如何なる可きや若しも風説の如く條約改正の談判いよいよ歩を進めて議會の開設前に落着することもあらんには迅雷一發排外論者の〓を奪ふに足る可し時に取ての手段として甚だ妙なれども實際の談判果して斯くまでに歩を進めたるや否や事、機密に屬して窺ひ知る可らず世間一般の推測に斯る誂向の上都合は或は覺束なきことならんと云ふもの多きが如し然らば政府の當局者は更に一段の勇気を鼓し開會第一に民黨の發論を待たずして自から演壇に現はれ出で條約■（がんだれ＋「萬」）行論の如きは開國進取の國是に反するのみならず目下談判中なる條約改正の進行を妨ぐるものなれば暫く思ひ止まる可しとの趣意を丁寧反覆演説して其輩の反省を促すは自から一手段なれども八方美人の政府に此决斷ある可きや聊か疑はしきのみならず假令ひ思切つて决斷するも今の民論は殆んど狂氣の沙汰にして前後の勘辨を失ふたるものなれば當局者の忠告を容れて再び止まるが如き到底望む可らず又もや排外問題の悶着の爲めに夫れとなく曖昧の間に再度の解散を命ずる〓成行は今より豫想して或は違はざる可し斯くて解散に次ぐに解散を以てして其結果は如何と云ふにますます攘夷的の氣風を煽動して人心を固陋ならしむるに過ぎず堪へ難き次第なり當局者は最早や騎虎の勢にして外に思案もなきことならんなれども顧みて民黨の爲めに謀るに或は種種の難題を持出して悶着を重ぬるときは今の虚弱政府は其難に堪へずして自から倒るるに至る可し政府さへ倒せば吾吾の目的を達したるものにして他は問ふに遑あらずとの精神ならんかなれども好しや今の政府が倒るるも之に代はるものは矢張り政府部内の功臣輩にして其政略に於ては格別の相違あるに非ず民黨は唯他人の爲めに勞して自家に利する所なきのみか奔命の爲めに心身の力を費し盡して他日の好機會に再び起つこと能はざるに至るの恐なきに非ず斯くては年來の苦心も水泡に歸する次第なれば今日は心を靜にして自から考ふるの時なる可し即ち其人人が自から取て代はるの目的を實にするは目下の事情に於て容易に許さざる所なれども其首領と仰ぐ所の老政客をして今の政府に列せしめ以て聯立内閣の實を行ふの一事は敢て望なきに非ざれば今回の改選を幸に第六議會よりは運動の方針を一變し平生の主義綱領は固く守りながら姑く其鋒を收めて聯立内閣の趣向に取掛りては如何、其實行に就ても多少の故障はあらんなれども今の當局者とても今日と爲りては別に思案もなき折■（てへん＋「丙」）、事の成就は案外に容易なるやも知る可らず議塲に空論を弄んで無益の爭論に日を送るよりも自黨の首領を政府に入れ傍より之を助けて其主義を政治上に行はしむるは漸次に平生の目的を實にするの順路なる可し是邊の意味は我輩の毎度勸告したる所にして其輩の耳には入らざることと信すれども今度の改選は心事を一轉するの好機會なるに付き無益とは知りなから一言を試みるものなり