「大婚の成典」

last updated: 2021-08-22

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時事新報に掲載された「大婚の成典」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

本日宮中に於て行はせらるゝ天皇皇后兩陛下御結婚滿二十五年の御祝儀は西洋に所謂銀婚式なるものにして我國に於ては今回始めての御式なれば其事は新なれども兩陛下の御伉儷幾久しく變らせられずして茲に二十五年の春秋を過ごさせられたるは此上もなき目出度き御次第にして帝室の御慶、際限ある可らず從來帝室の御祝儀は御即位の大禮を始め立后、立太子の御式等一にして足らざれども斯くも目出度き兩陛下の御盛運を祝し奉るの機會なかりしは吾々臣民の情に於て竊に遺憾に堪へざる所なりしに今回の御式は帝室の御慶事たるは申す迄もなく恰も其遺憾の情を滿足せしむるものにして一般臣民の歡喜措く能はざる所なり即ち一般の歡情は全國中に溢れて都會市邑の地は勿論、津々浦浦までも到る處として祝意を表するの催しあらざるはなし盛なりと云ふ可し我輩は本日の盛典に際して宮中

の御式の如何ばかり盛大にして兩陛下の御機嫌殊に麗はしき御有樣を察し奉り又全國の臣民が百事を擲て只管祝意を表するに餘念なき情態を見れば眼中たゞ帝室の御盛運と國民忠誠の情とを認むるのみ彼の政論の俗界に於ては或は官と云ひ民と云ひ或は何黨何派など

稱して互に論を異にして互に相爭へども一たび帝室に對し奉るときは官もなく民もなく黨もなく派もなく等しく忠誠一偏の臣民にして苟も〓國の心を懷くものはある可らず自から是れ日本國民固有の美質にして今更ら珍らしからぬことなれども本日の如き機會に際しては特に其美質の發揚を認む可し上には盛德無量の帝室あり下には忠誠無二の國民あり我輩は帝室の御盛運と共に我國運の萬々歳を祝せんとするものなり又今回の御式に就て吾々一般に感佩に堪へざるは國中の老年者に恩賜の御沙汰あると同時に人民よりの獻上品を許可せられたる御事なり帝室よりの恩賜は毎度の事にして爰に喋々するまでもなけれども獻上品を御受納あらせらるゝの一事は實に有難き次第にして一反の織物一對の器具その物は微なりと雖も臣民の至情を表するの獻品として畏なくも御手許に留置かせらるゝとあれば獻上者の身に取ては此上の滿足ある可らず即ち帝室の恩寵をして國中に遍からしむる所以なる可し謹みて蕪言を述べ全國一般の臣民と共に本日の盛式を祝し奉るものなり