「汽車發着時間の改正に就て」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「汽車發着時間の改正に就て」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

汽車發着時間の改正に就て

聞く所に據れば鐡道廰にては近々汽車發着の時間を改正して東京横濱間及び大坂〓戸間は二三回の發車度數を〓し東海道の通し汽車は是れ迄の二十時間を短縮して十九時間と爲す筈なりと云ふ從來官設鐡道の執務に就ては世間の非難少なからず殊に京濱間の發車度數の少なきが如き一般に不便を感ずる所にして我輩に於ても屡ば當局者の注意を促したることあり今回の改正は或は其邊に心付きたるが爲めならんなれども京濱間の發車に僅に二三回の〓發のみにては到底世間の希望を滿足せしむること能わざる可し現在の度數は十七回にして一回乗りたくるゝときは一時間餘を空しく費さざるを得ず即ち不便を感ずる所にして二三回の〓發も全く〓さざるに勝ること勿論なれども今日京濱間に於ける商賈人事の交通繁劇なる點よりするときは少なくとも毎十分若しくは十五分間に一回の發車は欠く可からず或は他の線路ならんには實際に許さざる事〓もあらんなれども京濱間には〓に複線の設あり殊に乗客貨物の多きは全國に其例を見ざる所にして随て〓益も〓しきことなれば苟も〓發の必要を感ずるときは明白にも之を行うこと難からず當局者は何故に〓斷せざるや僅に二三回の〓發にては實際に改正の〓なかる可しと我輩の敢て斷言する所なり又東海道列車の時間、二十時間を十九時間に改めて僅に一時間を短縮するが如きも數えるに足らざる改正と云わざるを得ず今の東海道列車の速力は一時間平均二十哩のよしなれども汽車の速力に二十哩とは最も遲〓なるものにして世界に其例を見ざる所なりと云う或は廣軌鐡〓に比較して狭軌鐡道に速力の遲〓は免れざる弊なりと云わんかなれども假令ひ狭軌なればとて一時間三十哩の速力を見るは實際に差支ある可からず或は三十哩の速力は實際に難からざれども今日の如き單線にては假令ひ速力を〓すも双方列車の行違いの爲めに空しく時間を費す掛念もあれば今の速力にて丁度適當なりと云わんか果して然らば假りに行違いの要點を複線にするなり又は全線を複線にするなり其不都合は如何樣にも改良する道ある可し其邊には敢て注意を加えずして僅々一時間の短縮を以て改正と稱するが如きは我輩の感服せざる所なり或は又速力を〓すなり複線を設るなり素より希望する所なれども何分にも費用の點に於て許さざるを如何せんとの〓もなきに非ず當局者の毎度口にする所にして一應理由あるが如くなれども我輩の所見は全く之に反するものなり凡そ日本の鐡道中にて東海道の線路の如く〓益の多きものはある可からず速力を〓し複線を設け一般の準備を充分にして〓支相償う可きは明白なれども當局者の計算に於て然らずと云わば其れは官の事業にして無益に費す所多きが爲めに外ならず若しも其營業を人民の手に一任して自由に改良せしむるに於ては萬般の計畫を充分にして〓支相償うのみならず然かも大に利益ある實を擧げんこと我輩の慥に〓合う所なり抑も日本の鐡道事業は今日尚ほ〓々にして一般の私立會〓の如き百事官設鐡道を模範として之を共に進退する風なきに非ず即ち官の當局者たるものは自から此邊の意味を體して假令ひ實際には多少の損失あるも全國の模範として着々改良の實を示す可き筈なるに今日の有樣にては全く營業一偏の〓〓にして世間公衆の不便に頓着することなし此點より見るときは東海道の如き特に有利の線路を官の手に專有して人民と利を爭うものなりと云わるゝも辯解の辭はなきことならん當局者にして若しも悟る所あらば大に改良の實を擧げて一般の希望を滿足せしむ可きなり