「外國航路の保護」
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時事新報に掲載された「外國航路の保護」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
外國航路の保護
日本郵船會〓が内國の綿絲紡績聯合會〓と契約して開始したる孟買航路の始末は前號に記したる如き事〓にして約束期限の二個年間は必ず繼續することならんなれども約束滿期の曉に至れば郵船會〓が一私立會〓の微力を以て世界に有名なる彼の彼阿會〓を對手に取り無限の競爭を試みるが如き到底能わざることなる可し左れば政府より特に保護を與へて事に當しめんか國中の一會〓が他に對して商賈上競爭すればとて政府の手を以て直に之に加勢するとは事態甚だ穩ならざるのみか假令ひ其競爭に勝つも僅に一敵手に對する勝敗にして日本航海權の全勝を制するに非ず〓を放て全局の大勢を見るときは航路の擴張す可き者は單に孟賞の一線のみに止まらず更に進んで歐洲に達する線路なり又方角を轉じて米國線なり濠洲線なり何れも擴張の必要を見るものにてありながら是等の線路は悉く外國線の占有する所なれば苟も我航路擴張の目的を達せんには四面皆航敵なりと覺悟して漸く競爭の區域を廣くし航路漸く擴張して競爭も亦随て漸く大ならざるを得ず孟買航路に於ける一の彼阿會〓との競爭の如きは事の小なるものと云う可し抑も海外航路の擴張は海國の急務にして國力を以て其發達を保護せざる可からずとは識者の早くより主張したる所なれども從來政府の當局者は曾て此邊に注意せざるのみか却て種々の拙策を試みて其發達を妨げたるこそ遺憾の次第なれ例えば前年三菱會〓が全盛を極めたる折柄、政府の當局中には三菱をして航海權を專有せしむるは國家の利に非ずとの〓を唱えるものありて百万勸誘の末、共同運輸會〓なるものを設立せしめたり其内〓は兎も角もとして運輸會〓の設立〓して非難す可きに非ず日本の海運を盛にする點よりするときは汽船會〓の設立多々ますます喜ぶ可き次第なれども當時の實際を見れば内國沿岸の航海は三菱の船舶にて既に充分なれば莫大の資本を投じて新會〓を設立せしめたる上は其船舶を海外の航路に向けて我海運の盛大を期するこそ適當の案なる可きに當局者の所見は然らず最初より三菱を敵として之を打倒す目論見なるが故に運輸會〓をして内國の航路に三菱と無〓の競爭を演ぜしめ双方共に非常の喪失を蒙らしめたる末、遂に已むを得ず兩會〓の合併を促し日本郵船會〓の新〓を見るに至れり即ち其結果は徒に國財を損して航海發達の機運を妨げたるに過ぎざるのみ此上もなき大失策なれども事の必要は其失策の爲めに止む可きに非ず爾來航路擴張の〓はますます盛にして〓會一般の與論と爲り〓に第四議會には議員より建議案を出し大多數を以て可〓したる程の次第にして政府の當局者も大に悟りたる所あるか第五議會には自から航海奬勵法案を提出したり前期の議會は例の始末にして其法案は議せずして終りたれども此一事に就ては機會〓に熟して一般に異議なきことなれば今回の第六議會には必ず航路保護の案を提出して其實行を急にす可し或は航路の擴張に就ては特別に或會〓と契約して或線路を保護する方法もあれども斯くては特に一會〓に私するものなりなど云う例の反對〓を生ずるも面倒なれば矢張り彼の航海奬勵法の〓〓を其儘に存しながら其條目に改正を加え政府より保護を受くるものと然らざるとを問わず苟も海外の航路に從事する船舶は一切〓等に〓助することゝ爲す方、便宜なる可し又政府の前案に於ては〓助の金額は凡そ五六十萬圓の見込のよしなれども斯る小額の金を以て航路擴張の目的を達するは到底難きことなれば少なくも二三百萬圓は費す覺悟なかる可からず國の航海權の發達より云えば〓して愛しむに足らざるなり斯くの如くなるときは彼郵船會〓の孟買航路の如き特に保護を與えずとも一般の日本船舶と同樣、自から其恩惠に均霑して永く航路を繼續し綿絲紡績業者の望を空しくせざるに至る可し我輩は政府が其案を第六議會に提出して速に實行せんことを希望するに切なり