「實業界に人なし」
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時事新報に掲載された「實業界に人なし」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
實業界に人なし
今の後〓の〓年が實業〓會に職を求めて容易に得ること能わずとの不平は毎度聞く所なれども一方に顧みて實業界の有樣を見れば寧ろ人なきに苦しむものゝ如し〓年來我國實業の發〓〓歩は著しき事實にして〓に新に〓りたるもの又將に〓らんとするもの指を屈するに遑あらず孰れも從來になき新事業にして隨て人を要すること少なからざれども何分にも〓當の人を得ざるは〓業當局者も常に苦しむ所なりと云う又從來の諸會〓を見るに其役員の中には曾て政府に職を奉じたるのみにして商賣實業の事には〓もなき人物少なからず盖し官〓民卑の餘〓として殊更らに是種の人を引入れて官邊に〓を結ぶ便宜に供したる事〓もありしことならんなれども〓來實業界の〓歩は斯る一種の〓實を許さずして實際の實權は名實共に有爲の人物に歸する傾あるが如し即ち今日の時〓は實業界の革命維新とも云う可き時にして新陳更〓の際に人を要するは自然の勢なれども如何せん實際に臨んで其人の乏しきこそ遺憾なれ例えば今〓に政府の大更〓を行い元老内閣の代りに民黨内閣を組織することにして其人物を後〓の政客中に求むるときは之を得ること〓して難からず試に其人物を擧げよとあれば我輩は目下の政客中に就て大臣次官より局長以下に至るまで一々これを指名するに苦しまざるのみか實際の事に當らしめても必ず其技倆を保證し可しと雖も之に反して或る實業の會〓を組織するに當り一切の役員を後〓者中より人〓せよと云われては大に窮せざるを得ず獨り我輩の窮するのみならず何人も斯る〓文を容易に引受くるものはなかる可し如何となれば其人〓の取捨に難きに非ず實際に其人なければなり斯くの如く一方には人を求めて其人を得ずと云う其一方に後〓の輩は職を求めて之を得ざるに苦しみつゝありと云う一見不思議なるが如くなれども畢竟その輩の心掛宜しからざるが爲めに然るのみ竊に彼等の内〓を察するに〓會現時の有樣を詳にせずして本來の依頼心を脱すること能わず其身の出世を謀るに先輩の周旋盡力さえあれば一蹴して相應の地位を得ること難きに非ずと獨り自から妄想する其有樣は前年官邊〓故の人々が一種の勢力に依頼して容易に商賣〓會に割〓みたる慣手段を再演せんと欲する者に似たれども今の實業界は漸く〓に政治外に獨立して政府の〓〓〓〓を許さず隨て斯る〓倖の機會もなく全く跡を絶ちたるが故に後〓生の出身は専ら自家の實力に依頼して自から謀る外に方便なきことゝ覺悟す可し即ち今日の事に當るには日新の學問知識を要するのみか其學問知識も學校に學び得たるのみにては用を爲さず之を實地に應用するには自から練磨經驗の功を積むこそ肝要なれ〓に學識あり又實地の熟練を得れば其上の要は唯信用を博する一事にして信用の厚薄は〓生の素行如何に在れば一朝一夕に得べからず幾歳月の間も怠らずして根氣よく自から勤む可きのみ左れば彼輩がいよいよ志を立てゝ實業界に入らんとならば地位の卑きを厭わずして實直に事を勉め次第に〓む心掛けこそ立身惟一の〓徑なる可し最〓より大に志して〓倖の機會に望を属し一身の〓命を〓する恰も富籤を買うが如くするは自から其身を弄ぶ者にして百中の九十九は籤に外れて失望の〓〓に陷り未だ身を立てずして先づ自から倒れ辛苦學び得たる學藝知識も終に無用に歸して人の顧るなきに至る可きは我輩の敢て前言して疑わざる所なり