「・釜山京城閒の鐵道速に着手す可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「・釜山京城閒の鐵道速に着手す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

・釜山京城閒の鐵道速に着手す可し

聞く所に據れば釜山京城閒の電信線は朝鮮政府と協議の上、日本人の手を以て修繕に取掛りたるよし電信の開通は此際是非とも必要にして左もある可きことなるが更に必要なるは前號の紙上にも述べたる如く釜山より京城に至るまでの鐵道を敷設して日韓兩國閒の運輸往來を便利にするの一事なる可し今度の出兵は人民保護の爲めなること勿論なりとは云へ若しも支那の出兵なかりせば必ずしも一日片時を爭ふの必要もなきことなれども彼にして兵を出せば我に於ても自から之に對するの決斷に出でざるを得ず双方の關係果して然るときには其出兵に遲速を爭ふも亦自から實際の必要にして自然の結果と云はざるを得ず然るに朝鮮に對する兩國の距離を如何と云ふに支那の威海衞より仁川までは汽船にて十二時閒の航程なれども我馬關よりは四十時閒餘にして彼に比すれば三倍以上の時閒を費さゞるを得ず瞬閒の遲速をも爭ふ兵略上の驅引に非常の不利なるは申す迄もなく商賣上の關係も亦これと同樣にして不便の甚だしきものなれば孰れの點よりするも鐵道敷設の必要を見る可し釜山京城閒二百幾十哩の鐵道落成するときは馬關より釜山まで海上十二時閒夫れより汽車にて七時閒、都合十九時閒にて京城に達するを得べし而して威海衞より仁川までは十二時閒、仁川より京城までは七時閒にして支那より京城に到るにも等しく十九時閒を要する勘定なりと云へば其曉には雙方共に時閒を同ふして遲速の差なきに至る可し軍略上より見るも事實上より見るも此鐵道を敷設して朝鮮に往來するに日本の内地に於けると同樣の便利を得せしむるは目下の必要として何人も異議はなきことならん仄に聞く所に據れば今回我政府は朝鮮をして自立、自から〓らしむるの方針を執り彼の政府に德義上の助力を與へ百般の事を改良して彼國民をして文明開化の域に改良せしめんとの決心なりと云ふ即ち鐵道敷設の如きは文明の進歩を助くる最要の事業にして第一に着手す可きものにこそあれば此際彼の政府に勸告して着手を〓〓せしむること肝要なれども二百何十哩の線路を敷設するには凡そ六七百萬圓の費用は要することならん今の朝鮮政府の有樣にては費用の支出は勿論、建築の技師を得ることさへも到底望みなき次第なれば金と人とは我國より供給して其事を成さしむること素より必要なる可し或は日本國人の力を以て他邦の國土に鐵道を設するとは少しく異なものには非ずやとの説もあらんかなれども西洋の文明國などにて斯る例は毎度の事にして例へば英國人が自から資本を下して大陸の諸國に電信を架設し鐵道を敷設して其事務を管理するが如き尋常一樣の商賣にして世閒に怪しむ者なし左れば日本人が朝鮮の文明を助くるが爲めに其國土に鐵道を敷設するは毫も異とするに足らずとして扨ていよいよ着手に決すれば其管理の權を日本人の手に收むること勿論なれども未來永劫その權利を繼續するが如きは固より欲せざる所なれば自から年限の約束なきを得ず其約束にも種々の方法ある可しと雖も落成後三十年もしくは五十年の閒は一切日本人の管理に歸せしむることゝして期限に至れば之を彼の政府に賣渡すか又は無代價にて讓渡すか孰れにても差支なけれども其授受の條件如何に由り隨て年限にも長短の差あるものと知る可し斯くて其費用の出處は如何と云ふに目下日本の社會は金に乏しからずして且つ利息も安きが故に六七百萬圓の金を支出するは敢て難からざるのみか寧ろ喜んで募集に應ずることならん或は朝鮮の如き未開の國に資本を下すは危險なり好しや危險の患はなしとするも工事落成の上、收支相償ふの見込ありや否やとの掛念もあらんかなれども其約束は兩國閒の條約とも見る可き者にして日本政府に於ても充分に責任を負ふて安全を保證するは勿論、朝鮮は未開國なりと云ふと雖も人口稠密、物産に乏しからず殊に國中唯一の中央線路なれば相應の利益あるは我輩の保證する所なり或は尚ほ是れにても不安心とあれば日本内地の東北鐵道其他の例に倣ひ日本政府より五朱なり八朱なりの利子を補給するも自から臨機の一法なる可し既に政府に於て安全を保證する其上に利子補給の恩典さへある以上は萬々掛念はある可らず内地に資本を下すと同樣の次第にこそあれば國中の資本家は爭ふて募集に應ずることならん資金を得るは甚だ容易なる可しと信ずれども若しも一般に募集するときは自から手數と時閒とを要して目下の急に應ずること能はざるの事情もあらんには一時政府の國庫金より支出して至急に着手せしめ工事落成の後に至りて人民に賣渡すことゝ爲すも實際に差支はなかる可し其方法は孰れにしても兔に角に事の要は唯速決速成に在るのみ