「西大陸銀貨國の外債」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「西大陸銀貨國の外債」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

外国新聞紙を見るに銀貨を以て本位とする中央及び南亞米利加の國々は何れも金銀相場の〓連甚だしきより歐洲の金貨國、殊に英國に對する公債利子〓仕拂に付き困難を極め殆んど爲す所を知らざる〓有樣にして現に墨西哥の大統領をして斯くの如きは過般國會に送りたる教書の中に墨西哥政府は外貨利子仕拂の爲めに此上國の租税を揄チすることなかる可し云々の意を述べて暗に故國の債權者に向て恐喝的の警戒を加へたり其他牙低麻拉、巴西等の國々に於ける政治家の説にも金價騰貴銀價下落の現象は畢竟するに今日の所謂金貨國が二十年前に同盟して銀貨を〓したるが爲めに生じたる結果なれば今更ら銀貨國の人民が獨り其災を負擔して餘計の錢を金國の富豪に奉納するの理由なしとて自國の權利を主張する者少なからざるよりして其影響は忽ち倫敦市塲に現はれ是等諸國の公債券の気配甚だ不味にして中には俄に大下落を生じたるものもあり云々の記事を掲げたり蓋し中央及び南米諸國の外債は大概皆二十年以上存立するものにして即ち銀一弗も金一弗も同値段なりし際に元利とも金にて仕拂ふ可き約束を以て借り入れたるものなるに爾後金銀の相塲次第に懸隔して今は即ち金一弗は殆んど銀二弗に相當するに至りたれば其結果は恰も負債の額が頓に二倍したるものに異ならず國民の困難するも亦宜なりと云ふ可し

我輩の毎度云へる如く金騰銀落の爲めに困難を感ずるものは單に外債の償却に苦しむ銀貨國のみに止まらず歐米の金貨國に於ても此變動の影響として物價下落、商况不振の災害を蒙り實業社會は異口同音に銀價回復の必要を主張して止まず各國の政府も亦經濟社會の與論に反對して強ひて銀を排斥するの意なきは事實に〓ふ可らずと雖も獨り如何せん世界中商賣の大王を以て稱せらるゝ英國が徹頭徹尾、銀本位に反對し頑として動かざるを以て他の國々に於ても英國の決心にして斯くの如くなる以上は如何とも詮方なしとて回復の事を斷念するのみならず尚ほ今後の成行を慮りて頻りに銀を退け金を〓ふるが故に金はuす騰貴して銀はuす下落するの外ある可らず左れば今日の處にては兩貨制論者も空しく手を束ねて英國の鼻息を窺ふの有樣なるこそ是非なけれ然るに茲に聊か銀人の爲めに有望なる一事とも云ふ可きは元來英國にて右の如く頑然金本位を固守する所以のものは同國の富豪等が他國に對する貸附金の元利を取立るに際し金價騰貴に由て利する所大なる其利味を忘るゝこと能はざるが爲めなりしに前記の如く墨西哥以下の國々が互に申合せて外債の償却を怠るの色あるを見ては流石の富豪も大に思案する所なきを得ず或は公債の利子を拂はざるは約束違犯の所爲なれば英國政府は軍艦を派遣し兵力を以て之を取立れば〓なりとの説あり如何にも英國の力を以てすれば西大陸の銀貨國を盡く敵とするも恐るゝに足らざる可しと雖も斯くては入費も容易ならず又假令ひ兵力を以て敵を屈服せしめたりとするも愈よ彼等をして要求通りの金額を拂はしむるに至るまでには少なからざる手數を要すること明なり兎に角に此類の故障は債券所有者に取りて甚だ〓はしからざることなれば負債者擧動果して是か非か其邊の議論は姑く擱き假令ひ法律上より不條理なりとするも實際に拂ふ可き物なれば之を如何ともす可らず即ち俗に云ふ不手腐の境界に在るものにして英人も此に至りては聊か當惑〓情なきを得ず法律論を押立てゝ無二無三に督促せんか、費用多くして實際に錢を得ることは難し然らば之を自然の成行に任せんか元利共に返濟の期はなかる可し誠に困り果てたる次第にして我輩は商賣王の爲めに謀りて餘處ながら氣の毒に思ふ所なり左れば今回亞米利加の銀貨國が外債の處分に不手腐の策を〓〓〓〓〓〓金〓をして金貨單本位の弊を悟らしむるに最も面白き思付にして兩貨制論者の竊に滿足する所ならんと我輩の信ずる所なり