「十數年來の戰勝」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「十數年來の戰勝」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

十數年來の戰勝

開戰以來我軍は海陸ともに〓捷を告げて殆んど無人の境を行くが如し是より奉天府を陥いれて滿〓の根據を〓き旅順口、威海衛を略して更に首都北京に〓り勢い鋭く城下の盟をなさしむるも其日盖し〓きにあらず帝國の國〓ますます盛大ならんとするを見て外國人などの中には徃々説を作す者あり曰く抑も今回の事件たるや其始め朝鮮の内亂に備へんが爲め日〓兩國〓の〓の出兵に及びたりしに〓國は無〓にも朝鮮を属邦〓し且つ日〓に向て無法の攻撃を加えたるより〓に大破裂を來たしたるものなり然るに爾後〓軍は成〓に〓われ〓壤に破れて韓地また支那の一兵を留めず殊に毎度の敗軍の爲め老大國も頗る落膽閉口の樣子なれば日本の目的は〓に〓したる譯にして此上の戰爭は戰爭に枝を生ずるものと認めざるを得ず日本は宜しく心任せに朝鮮の改革を助け又支那より充分の償金を取りて爰に一段落を告ぐるこそ相當ならん何ぞ必ずしも深く内地に斬〓みて城下の盟をなさしむ可けんや云々と一應尤もなるに似たれども畢竟從來に於ける日〓間の深き關係を知らざるよりの〓見なれば一言以て此種の蒙を啓くも亦敢て無益に非ざる可し夫れ朝鮮は〓然たる獨立の一國たるにも拘わらず支那は陰然それを落属〓する風ありしが曩に日韓條約を締結して我國が朝鮮の獨立を認めたりし際それに對して支那より何等の異議とてはなかりしかども彼の對韓政策は此時よりして恰も一新紀元を開きたるが如く曩に筆法を改めて如何にも属邦を〓する處置を取りたる其意蓋し日本は我属邦と對等なりとて例の中華の〓大を誇示したるものならん自から是れ國際の安穩を輕んずる擧動なれども日本政府は只管〓和を重んじて敢て公然それを咎めざりしに〓國の慢心は漸く募りて〓に明治十五年に至り京城の騷動を好機會として其混雜に乗じ擅まゝに太院君を自國に拘引して押籠めたるが如きは明に属邦を處分するものと見る可きのみならず實に傍若無人の暴行と云う可し是れをしも日本政府は〓和の重きに比すれば猶ほ輕しとして敢て動かざりしに間もなく十七年の變亂あり是れは朝鮮の有志輩が政府の弊毒を改革せんが爲めの企にして當時彼の國王は日本公使に使者を馳せて〓人の用意やありけん無法にも兵を出して我れに砲撃し剰さへ居留日本人に對して種々言うに〓びざるの惨虐を加えたしは〓に充分一戰の價ありしも我政府は〓和の談判を〓げて天津條約を結び支那政府にては加害者に對して嚴重に處刑す可しとの約束なりしに其後約束は毫も事實に現われざるのみか當時〓兵を指揮して砲撃暴行を逞ふしたる袁世凱が駐在官として朝鮮に來り我物顔に韓廷を〓使して併せて無禮を我國に加えること一再ならず〓國にして苟も國交を重んずる心あらば約束を嚴守す可きは申す迄もなく交際官の人撰にも注意あるこそ當然なるに其仕打の全く反對に出でたるは是亦看〓す可からざる次第なれども我政府にては例により〓和の爲めに見て見ぬ振の辛抱したり夫れより明治十九年には丁汝昌が水師を率ゐて長崎に來り亂暴狼藉言語に斷えたる無禮を働きしが如き〓して不問に付す可からず我國民の激昂一方ならざりしかども政府は猶ほも〓和の主旨によりて事を〓けたり又〓くは金玉均〓難事件の如きも支那の領地内に〓りたる變事なれば〓廷は宜しく加害者を處罰す可きは勿論金氏は日本寄留の客人にして我上流〓會に朋友も少なからず名は朝鮮人にても其實は日本國の一紳士とも云う可き身分なれば其邊に對しても多少に會釋して自から禮儀の法もある可きに一切無頓着のみか此紳士に害を加えたる兇漢洪鐘禹を〓すること極めて厚く特に軍艦を仕立てゝ金氏の死體と共に之を朝鮮に護〓したる上に李鴻章は韓廷に打電して賊魁玉均の死滅を〓したりと云う拙々怪事、都て是れ日本國に對する間接の無禮にして俗に云う面當ての爲めに侮辱を加えたるものなり其他彼れの無〓は一々枚擧に遑あらず何れの點より見るも我に向て戰を挑む者なれども十數年來〓に發することなかりしは唯我政府及び國民が毎に其〓ぶ可からざるを〓びたるが故のみ凡そ實力の足らざるが爲めに他の下風に屈するは自から止むを得ざる次第なれども彼の老大國の不文不明にして與みし易きは吾々日本國人の夙に知る所なり之を知りながら唯〓和の爲めにとて其妄慢を逞ふせしめて侮辱を被る、我朝野の感〓は推察に餘りある可し吾々は今日これを回想しても尚ほ切齒に堪えざる者なり目下戰爭の苦痛固より大よりと雖も十數年間我國人屈辱の苦痛に比すれば尚ほ輕しと云わざるを得ず左れば是等の事〓を知らざる局外の外國人に於ては簡單に本年六月以來の事實を見聞して日本は恰も必要以外の戰を戰ふものなりと認ることもあらんなれども當局の吾々より之を見れば實に十數年來發す可きの戰機を抑えて〓に此回に至りいよいよ止むを得ざる動機に觸れたることなれば〓して容易に戰ふて又容易に和す可きにあらず戰爭の爲めには莫大の財力を消し幾多の人命を失ふ、素より好む所に非ざれども多年〓んで戰わざりしも〓和を重んずるが爲めなり今日大に戰ふも亦〓和を重んずるが爲めのみ果して老大國の妄慢を懲らして其悔悟の實證を押え永遠の〓和を保證するまでは斷じて姑息を容れざるものなり