「海員掖濟會の補助」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「海員掖濟會の補助」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

海員掖濟會の補助

我輩は航海業を論ずる毎に海員の養成最も大切なりとて政府の注意を促したること屡々なりしが當局者の〓心未だ充分ならずして曩に三菱會〓の商船學校を變じて官立となし次で一二を〓設して纔に一部の要に充てたるのみ其餘は依然として海員掖濟會と云へる民間有志の私會に放任し政府も深く介意せず世人も或は知らずして〓〓年所を〓したるは我輩の夙に〓憾とする所なりしに日〓開戰以來俄に〓〓船の必要を〓したるが爲め海員の供給も事實の上に於ていよいよ焦眉の急を告ることゝなれり〓〓の衝に當れる郵船會〓にては急遽に應ぜんが爲め掖濟會と相談する所ありしかども有志の寄附金によりて成立したる同會が十餘年の久しき經營辛苦を重ね少額の資金を以て多數の海員を養成したる事其〓に多とする所にこそあれば容易に其附托に任ず可くもあらざるより會〓と熟議の上百万盡力或は休業せる海員を集め又沿海の人民を新募する等東馳西奔して纔に一事を彌縫し以て軍國の義務に欠くことなからしめたるは實に偉大の功と云う可きなれども船舶の〓ひ〓ひ〓加すると共に會の業務もますます繁多なる可く隨て金を要すること大ならざるを得ざるのみか海員の募集は陸上に於ける人夫の募集を趣を殊にし其人は多少其〓の心得なかる可からざるが故に員數も亦自から多からず殊に危險を冒して戰地に向わしむることなれば之に別談の手當を與える等も自から必要なれども會も微力なる是れさえ意の如くならずとは其困難察するに餘りある可し萬一海員等が就業を願わしからずとて〓職を申出たれば如何す可きや假令ひ然らざるも補欠の必要は免る可からざる所なれば是非とも豫備員の設けなかる可からずと雖も現在の入用すら困難を感ずる程なれば補欠豫備の如き迚も行届く可くに非ずして誠に危き事〓の下に在りと云う軍事上捨置き難き大事にして本來政府が之を一私會の爲す所に任せ漠然傍觀するとは油斷の限りと云わざるを得ず或は之に補助を與へんとするも其名義なかる可し云々の説もある由なれども〓〓船の海員は〓ほ軍隊の下士卒の如し其欠く可からざる申す迄もなく此回とても幸に掖濟會の存するありたればこそ今日の好結果を得たるなれ若しも之れなかりせば當局者は如何して相當の伎倆ある海員を召募し得べきや國家の爲め眞に偶然の僥倖にして而して其會は今や至急の用意に困苦しつゝありと云う之をしも補助の名義なしとせば天下何ものか名義あらんや〓に軍備の一部を割きて充分の補助を吝まざらんこと我輩の敢て當局者に促す所なり斯る大事を等閑に付して時に或は〓〓に差支を生じ延いて兵機に關することありとても其責任の歸する所は會にあらず世人にあらず一に當局者に存するのみ右は差向きの急要に就て〓べたるなれども前〓航海業の〓歩と云い且つ非常に備える用意として大に〓海員を養成する大切なるは復た敢て辨を俟たず我輩の所見は之を自然の發〓に放任せず宜しく國家の事業として經營す可き筈のものと信ずる所なれども海員掖濟會は明治十四年來の經驗を積みて事に詳しく且つ信用も充分なれば此際意を〓して一時に何百萬圓を補助し國家の業務を委託するは遙に政府の新計畫に優るあらんと認むる者なり一〓に斯の如くにして政府が私會に補助を與える例を開くときは他の諸會も名を國家事業に托して同樣の請求をなし〓に〓く可からざるに至らんと云う者あり我輩は其事果して請求の理由あるものは是亦敢て斥くる者に非ざれども他事は暫く別論に讓り海員養成の一事は海國の爲め最先最大の要務として絶對的に國家の補助を主張するものなり