「旅順に海底電信を通す可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「旅順に海底電信を通す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

旅順に海底電信を通す可し

戰地の〓信は電信に由る常にして我大本營が出征軍の報告に依り敵の〓況を詳にして作戰の計畫を定め更に命令を發する動作は一に電信の便利に依頼せざるを得ず戰爭の〓動に就き何事を置きても先ず第一に注意す可きは軍事電信の一事なり今や第一軍の占領地は我軍の〓むに隨い電信の架設も亦その歩を〓めて到る處に〓信の便あるが故に其報告は時を移さずして内國に〓し我作戰の計畫上に非常の便利ある可きは勿論、吾々一般の國民も彼の〓京省極北の戰〓を即日に知り得ること恰も手に取るが如くなれども今回大二軍の占領したる旅順の方面は割合に距離の〓きにも拘わらず電信の便なきが故に其報告に接するには多少の時日を待たざるを得ず目下軍事〓〓の塲合に當りて堪え難き次第なりと云う可し尤も第一軍〓に第二軍の双方より不日聯絡を全うする〓びのよしなれば其上は今日の如きっ不便はなく旅順方面の消息を知ること第一軍の有樣を知ると同樣なるに至ることならんなれども左るにても我輩は此電信線路に就ては聊か不安の〓なきを得ず第一軍の根據地なる九〓城の邊より第二軍の根據なる金州邊に至る海岸の一帶は其延長非常にして假令ひ我占領地とは云へ警備も自然行届かずして危險少なからざれば此海岸に沿う線路は時として敵に切斷せらるゝ虞なきを期す可からず或は實際に其危險なしとするも目下冬季の嚴寒風雪等に際し天然の妨害の爲めに不〓の故障あれば一々修繕する其手數も一方ならずして詰り萬全の線路に非ず分秒の急を要する軍事上の〓信に斯る掛念ありては實に不安心の至りなれば寧ろ旅順もしくは大〓灣より朝鮮の大同江に〓する海底電信を敷設し以て本國との聯絡を全うすること得策なる可し陸上を海底と敷設費に相〓はあれども今日の塲合に一線の電信區々たる費用は問うに及ばず我輩は只〓に着手して軍事〓信の安全と敏〓とを謀らんことを希望するものなり聞く所に據れば〓年露土の戰爭の時、英國は大に警戒する所ありて其艦隊をダーダチルス海峡の附〓に集め即時に希〓を經て海底電信を敷設し海軍碇泊地に〓せしめて本國と直接の〓信を開きたりと云う戰爭も未だ開けざるに早く〓に〓信の便を謀る其機敏驚くに堪えたり我輩は海底電信の敷設を目下軍事上の必要と認むるものなれども更に一歩を〓めて考えれば旅順は天然の地形、直隷灣の要口を扼して要害の塲所を占めたる其上に砲薹の防禦と云い〓船所の設置と云い實に東洋屈指の軍港にして敵をして據らしむ可からざる地なり今や此地にして幸に我手に入る苟も力を以て來り奪うに非ざれば〓して他に渡す可からず即ち旅順は今後永久我軍港として維持す可き塲所なれば海底電信の敷設は固より必要にして目下一時の用に供するのみに非ず之が爲めに多少の費用を要する費用を要するも敢て〓しむに足らざる可し