「器械力の電氣傳送」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「器械力の電氣傳送」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

器械力の電氣傳送

電氣の作用に由て器械力を遠方に傳送するの方法は十數年來西洋理學者の工風を凝して研究する所なれども愈よ之を實地に應用して利益を見るに至りしは僅々二三年來の事なり電力を傳送するに連續電流式と交番電流式と二樣の方法あり今爰に二者の區別を詳述するときは繁雜に渉るの恐あれば之を略して事の要領を記さんに連續式は壓力の低き電流を多量に傳送するものにして交番式は壓力の高き電流を少量に傳送するものと知る可し然るに多量の電流を送るには其割合に電線を太くするの必要あるを以て遠距離の傳送には是非とも交番式を用ひざる可らず其趣を喩へば水力を遠方に輸送するに成丈壓力の高き水流を使用するときは管の直径大なるを要せずして爲めに工費を省くの利益あるが如し左れば數年前交番式の發明世に公にせられたると共に電力傳送の問題は茲に面目を一新し爾來有名なるニコラ テスラ氏を始として數多の電氣學者は熱心に此問題を考究し其結果として遂に電力の傳送は愈よ實際に行ふて充分に利益ある事業なりと認定せらるゝに至れり目下此事業の最も盛に行はるゝは北米合衆國にして無數の電力會社は國中到る處に設立せられ中には非常の利益を收るものあり近着の米國電氣雑誌エレクツリカル レヴヰユーに掲載せる左の記事を見れば以て彼國に於ける電氣事業の現况を窺ふに足る可し(此記事はスミスなる人の投書に係る)

右の如き次第なれば電力傳送の事は最早や試驗の時期を離れ實際工業上の用に供す可きものたること事實に疑ふ可らず我國の如きは何處の山間を尋るも急流瀑布の多きこと殆んど世界無類なりとの評あれども今日まで未だ之を利用するの企なき甚だ遺憾なりと云はざるを得ず世間の實業者にして今日速く適當の塲所を撰んで電力傳送會社を設立したらんには或は一攫千金の利益もある可し我輩の敢て忠告する所なり