「鐡道會の組織を望む」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「鐡道會の組織を望む」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

鐡道會の組織を望む

今回の戰に我軍隊が海に陸に連戰連勝、恰も猛虎の群羊を驅るが如く僅かに半年餘りの間に傲慢無類の支那帝国をして平身低頭、我軍門に降伏せしめたるは世界の歴史に比類稀なる大手柄にして是れが爲めに日本國の〓價を高くしたること固より少小ならざるが扨て戰爭〓に終を告げて再び太平の天地と爲りたるの曉、我國は如何にして其既往に得たる名譽利益を維持し又これを增進す可きかと云ふに其方法は固より一にして足らざれども何はさて置き先づ第一の急務は工業を盛にし商賣を繁昌せしめて以て國の富を增殖するの工風に外ならざる可し何となれば冨は即ち國力の由て生ずる根源にして國の財政豊なるときは兵備は勿論、學術教育其他文明百般の事項、都て思ふまゝに發達整頓せしむることを得べければなり而して商賣工業を擴張するに最も必要なるは即ち運輸交通の路を便にする事にして假令ひ國に如何ほどの財源ありとても貨物運搬の方法にして備はらざるときは所謂寶の持腐れにして實際の用を爲すことなし日本の如き四面環海の国に在ては商賣の爲めに海運の必要なるは申すまでもなきことながら是れと同時に内地陸上の運輸も亦決して輕忽に看過す可らず即ち外には船舶を浮べて外國の徃來交通を便にし内には鐡道を敷て全國都市の間に聯絡を通じ二者相俟てこそ始めて富源開發の功を奏することなれ然るに熟ら我國の状勢を觀るに海運の事業は既に相應の進歩を現はしたるのみならず目下海員養成、船舶製造等の事に注意して力を盡す者少なからずして前途頗る望ありと雖も獨り鐡道事業に至ては其進歩遅々として一向に捗取らざるものゝ如し日本國の人口面積に割合はして鐡道哩數の法外に少なきは我輩の常に堪へ難く思ふ所なれども今これを別にして其少哩數の鐡道を營業する方法の拙劣なるも亦た充分に人をして長大息せしむるの價あり現今我國に三千哩の鐡道ありと稱すれども其營業方法は十數年來殆んど改良したることなく不都合極まるものにして之を西洋諸國の鐡道に比すれば固より同日の談にあらず左れば三千哩の鐡道も實際の效能より論ずるときは或は英米鐡道の三百哩にも及ばざることならん日本の鐡道は馬車鐡道の少しく進歩したるものに過ぎずと云はるゝも我輩は辨解の〓に苦しむ者なり畢竟するに斯る不都合の生ずる所以のものは鐡道の役員が自家の業務の性質を解せず唯一圖に節儉して收入と支出との差を大にせんことを是れ勉め公衆の便益を思はず又自家遠大の利害を悟らず守舊一偏の方針を以て改進世界中の最改進的事業を營まんとするが爲めのみ左れば我輩は彼等の頭〓より斯る不了簡の妄想を一掃するの手段として先づ現今の官私鐡道營業者が協議して一の団體を造り之を鐡道會と名つけて専ら自家の業務に關する萬般の事抦を研究するの路を開かんことを勸告する者なり思ふに鐡道業に從事する人とても皆擧て今日の状態に滿足する者のみにてはあらざる可ければ鐡道會開設の上は必ず〓〓有益なる〓〓〓の〓續提出せられて爲めに我國鐡道事業の面目を〓〓するに至らんかと我輩の竊に望を〓する所な〓〓〓の〓〓に就ては營業者の意見もあることならん〓れせ〓差當り或は現在の私設鐡道懇話會なるものに改良を加へて其區域を擴め又其性質を一變して今少しく實務的の協会と爲さんには今日故さらに新団體を創立するにも及ばざらんか其邊の事は都て之を當業者の取捨に一任することゝして我輩は兎に角に鐡道營業の改良を目的とする會合の速に組織せられんことを切望して已まざるものなり