「臺灣殖民會社を設立す可し」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「臺灣殖民會社を設立す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

平和定約の結果として臺灣が日本國の所屬に歸したるに就ては我輩は同嶋に日本人を移住せしむるの目的を以て臺灣殖民會社の速に設立せられんことを希望する者なり抑も臺灣は東南八十哩南北二百三十哩の一大嶋嶼にして其面積は我九州に髣髴たり氣候温暖にして地味〓〓、頗る天然の産物に富み甘蔗、棉、米の如きは人力を借りずして自然に生茂するもの多しと云ふ支那人が此地に移住を始めたるは極めて近年の事にして隨て其人數も未だ多からず最近の調査に據れば全嶋の人口支那人と土人とを合せて凡そ三百萬内外なりとの計算なり嶋の大部分は空しく野蠻なる土人の爲めに占領せられ農業なり鑛業なり天然の富源尚ほ未だ開發せられざるもの甚だ多ければ此度び日本政府が臺灣の支配者となり支那人の特有とも云ふ可き施政上の弊習をば悉く除き去り公平なる日本の法律を公平に施行して人民の財産私權を嚴重に保護せんには是れまで官吏の徴發奪掠を恐れて成丈け手を控え居たる支那の富豪は何れも安心して諸般の事業に資本に投ず可く又日本よりも必ず陸續資本を注入する者出で來るに相違ある可らず而して是等の資本を實際に使用して富源發達の目的を達せんとするに當て第一に必要なるものは即ち勞力なり盖し資本と勞力とは恰も車の兩輪の如く二者互に相助るに非ざれば實際の用を爲さざるものなればなり現に支那の實業家は臺灣に土地を買ひ眼前に大利益を見れども勞力の不足なるより之を取て我物と爲すこと能はず已むを得ず大金を拂ふて本國より貧民を購來るは毎度の事なりと云へば若しも今日我國に臺灣殖民會社を創立し同嶋に移住せんと欲する者の爲めに出發渡航の周旋は勿論、先方に到着の上も衣食住一切の世話を爲す事とせば資本家に取りても又出稼人に取りても此上なき便利なるは疑ある可らず殊に目下戰地より歸來りて差當り職業の目途なき軍夫の輩を募て臺灣に移住せしむるときは彼等は必ず悦んで其募に應ずることならん彼等は何れも皆多少冒險の氣象を備ふる者にして中には或は日本の内地に在て社會に厭はるる程の無頼漢もあらんなれども臺灣の未開地に移住して天然風土の困難を冐し又時としては慓悍なる灣民の襲撃に備へて殖民地の安寧を維持する等の任に當らしむるときは無頼漢こそ却て實用を爲すことある可し我輩は此際一日も速に臺灣殖民會社の設立あらんことを切望する者なり