「鐡道會に就て」
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時事新報に掲載された「鐡道會に就て」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
鐡道會に就て
我國の鐡道は近來漸く振興の勢を呈するに至りたれども素より巨大の資本を要する事業なれば國家經濟その他種々の事情よりして未だ暫く國内の要地に敷設するに至らず便利を欠くこと少なからざるが故に天下の與論は専ら未設地方の經營速ならんことを祈りて復た他を顧るの遑なきが如し我輩も亦鐡道の國内に蛛網をなし運輸の便利と共に國力の發達を切望する者なれば今回戰勝によりて領收す可き償金の如きも其一部を割りて鐡道資本に供するは盖し償金使用法の適當なるものと信ずる所なれども暫く別問題として今の時に當り鐡道に就て論ずるときは一方に新設若くは延長を急ぐと等しく他方に於て既設鐡道の事業に改良を加へ文明の利器をして益々その利を逞ふせしむるの工風こそ肝要なれ〓ふに十年以前までは我國人に鐡道の見本を示し又その効益を説明するに過ぎざりしが今や線路も一千幾百哩の長きに達し氣運漸く一轉して之を人に喩ふれば既に襁褓を脱して成年自立の境遇に進みたるものと云ふ可し世間も亦之と同じく鐡道を以て漫に舶來の珍品と視做さず正に是れ陸運上最大最要の機關と認め之に重任を托しつゝあることなれば時勢と共に其業務を改良し一般の便利を增進するの計畫を怠らざるは鐡道業者の義務として避く可らず盖し鐡道は運輸の通路を独占し且つ法律の力により他線の平行競爭を免るゝの特典さへあることなれば單に營業の都合にのみ拘泥す可らざるは勿論事業改良の事たる必ずしも入費を損するのみにあらず爲めに收益を增加して差引大に利することもある可く或は費用を省くこともある可きに我國の鐡道事業は今日に至るまで依然舊態の儘に止まり殆んど成蹟の見る可きものなきは要するに職務に怠慢なるものと云はれても復た一言の辯解なきが如し過日の紙上にも述べたる如く西洋諸國の鐡道は改良又改良殆んど至れり盡くせりと雖も猶ほ社會公衆の非難を懼れ孜々として敢て止ざるは誠に感服の次第にして彼とても斯業に付ては左〓多年の經歴あるにあらずステヴンソン氏の大發明は今世紀の初なれども其著しく長足の進歩をなしたるは實に近年のことにして我國にては其進歩したるものを學びたることなれば創設以來日尚淺きの故を以て改良の責を免る可きにあらず否社會の實勢に伴ふて適當に其任務を果すこと能はずんば公衆は寧ろ鐡道なきに如かざるの〓をなす可し家に婢僕を置くは用を辧ぜしめんが爲めなれども其働き甲斐々々しからざるときは人情の常として却て婢僕の在らざるを可とするに至ることあり是れ即ち事物の完全に達する迄は必らず改良を加へざる可らざる所以にして天然の約束とこそ云ふ可ければ此約束を果さゞるものは取りも直さず天然に背くの行爲たらざるを得ず然るに我國の鐡道事業者は恰も之を顧みざるが如く守舊一偏の方針を以てする上に世の論者も亦或は之を等閑に付し動もすれば鐡道運賃引下の説をなす者あるなど誠に意外の〓〓して〓〓婢僕の不働なるが爲め〓其給〓を低減せんとするが如く退縮〓〓の〓〓に在ては〓〓〓も〓〓的〓〓の人は假令ひ〓〓〓〓高くするも〓〓〓〓〓〓〓〓〓こそ〓〓〓る可しんや〓〓當事者自身〓〓ては一面に〓て公衆の用を辧ずる婢僕に似たりと雖も一面よりすれば社會の文明を促進する主人の位地を占むるに於てをや他の忠告を俟つ迄ものあく自から進んで同業者と相圖り各自の知識經驗を交換し衆智を鍾めて改良の方法を攻究するは今日に最先の急務にして鐡道會の組織決して無効にあらざる可し聞く所によれば當事者間にも寄り寄り其説ありといふ誠に左もある可きことにして天下多事世局隨て其趣を改めんとするの今日我輩は其必成を期して待つ者なり