「中途にして面倒を他に分つ可らず」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「中途にして面倒を他に分つ可らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

中途にして面倒を他に分つ可らず

近頃朝鮮の事を論ずるもの多きが中には宜しく隣強と妥協して此問題を定む可しと云ふも

のなきに非ず紛々擾々として歸する所なき其近状を見て速に結末を附けんことを思ふは無

理ならざれども日本國民の朝鮮に對する希望は既に一定して動かす可らず即ち其民を導き

其國を開て獨立の實を得せしめ我れは唯永く商賣貿易の利を利せんとするものにして戰爭

の目的も一に比に存したることなれども文明の素なく立國の資に乏しき國民を育てゝ一人

前のものと爲さんには氣を長くして效を永遠に期せざる可らず菓物を食はんと欲する者は

先づ苗を植ゑ肥料を與へ雜草を除き暴風に備へ以て時節の到來を待つ甚だ待ち遠くして堪

ふ可らざるが如くなれども辛抱せざれば望を達す可らず朝鮮の事も亦斯くの如くにして之

をして美菓を結ばしむるまでには蟲害内より發して幹を倒さんとすることもある可く暴風

外より吹き來りて枝を折らんとするこもとある可し其暴風を防ぎ蟲害を除き以て成長を助

くる其間の面倒は一方ならざれども辛抱して時節を待つの外なし然るに今隣強と妥協して

事を定む可しと云ふが如きは恰も園丁が折角培養の半に屈托して他人に勞を分たんとする

ものに異ならず誠に短氣なる沙汰にして日本國民の本意に非ざる可し英國は埃及より佛國

を排斥して自から勢力を張りたれども固より之を略して自國の所領と定めたるに非ず是に

於て埃及問題なるもの屡ば歐洲の外交社會に喋々せられて甚だ面倒なるが如くなれども英

國は一切頓着せず孜々經營、他日の成功を期するのみにして苟にも他國と妥協して問題を

定む可しなど因循姑息の色を示したることなし我の朝鮮に對するも亦此筆法に從ひ急がず

倦まず徐々に誘導開發するの外なし其法は一切平穩を主義として唯交通を便利にし彼我の

人民相觸るの間に自然に我文物に感化せしむるの策を構ず可きのみ彼の渡航規則を嚴にし

て往來を限るが如きは一時の處置として必要なきに非ざる可しと雖も固より長久の策に非

ず又彼の歳計の不足の如き如何にして補充す可き歟、信用もなき貧弱國に向て毎度大金を

貸すは固より好ましからぬ次第なれども彼の財政の窮迫、今日これに金を貸さずと云ふは

取りも直さず其自滅を傍觀するに異ならず小供の敎育には自から資金を要す朝鮮國の敎育

は師なくも我日本國の任ずる所と爲り彼の邪慳なる後見人の手より引き離したる上は新後

見人に於て多少の錢を貸すも亦已むを得ざる義務なる可し兎に角に半途にして他國に面倒

を分たんと云ふが如き意氣地なき考を起すことなく老婆が孫を世話する如く氣長に親切に

養育して初めの目的を達せんこと我輩の望む所なり