「蓄電池」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「蓄電池」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

蓄電池

電氣を人間の實用に供するの術は近來非常の進歩を現はしたる其中にも昨年以來米國に於

ける蓄電池の發達は最も速に最も驚く可きものにして是れが爲め一般の電氣事業に一大變

動を惹起さんとするの徴候ありと云ふ抑も蓄電池とは字義の如く電氣を蓄ふる器械にして

其方法には種々樣々の別あれども要するに或藥品に電氣を仕掛けて化学上の變化を起さし

め他日其變化したる藥品が再び元の状態に復する際に發する電氣を利用するの趣向にして

事の道理は例へば若干の力を費して時計の彈機を捲締め置くときは其彈機が自から延びて

元の形状に復する際に始め費したる力と略ぼ同量の力を發するものに異ならず電氣を貯蓄

する方法の始めて發明せられたるは實に數十年前の事なれども極めて近年に至るまでは唯

學術上の一奇事として知られたるまでにして之を實用に供するの望なかりし處、一兩年前

より之に關する新發明の續々現はれ出でたる結果として蓄電池も今は實際に應用して充分

に見込ある有益の道具とはなれるものゝ如し近着の米国電氣雜誌エレクツリカル レヴヰ

ウに左の記事あり亦以て蓄電池問題が如何に彼國實業社會動搖の原因となれるかを知るに

足る可し

蓄電池の發達は遠からずして電氣事業の大革命を生ぜんとするの勢あり世人の知る如く費

府の蓄電池會社(Electric Storage Battery Company)は蓄電池に關する特許權七百餘種を

所有し凡そ合衆國、佛蘭西、獨逸及び英國に存在する特許權は殆んど殘らず此一社の手に

在りと云ふも過言にあらず而して同會社の使用する蓄電池は能く原電力の八割五分を蓄へ

て之を實際に供給するの力あり過般以來同會社は二種の大目的を立てゝ營業に從事せり一

は即ち現在諸所に使用せらるゝ發電器をば其不用の時間に運轉して以て蓄電池に電氣を装

入することにして一は即ち諸種の電氣事業(殊に架空式電氣鐵道事業)に免る可らざる電

力の消散を利用して同じく蓄電池に装電すること是れなり而して今や會社は將に此二箇の

事業に於て頗る香ばしき収益を見るの境遇に近づきたるものゝ如し詳細なる實地の調査に

據れば米國の諸會社に於ける發電器の使用時間は平均一日に六時間以内なれども是れに修

繕其他の時間を加へて假に八時間と見做し殘り十六時間は全く何等の用をも爲さゞるもの

なれば其不用の時間に之を運轉して蓄電池の装電に使用するときは經濟上に非常の利益を

生ずること多言を俟たずして明なり又架空式電氣鐵道に蓄電池を使用するの利益は尚ほ是

れよりも大なるものあり現在米國の各都市にて電車を運轉する爲めに無益に電力を消散す

る高は實に驚く可きものにして例へばブルクリン一市の電氣鐵道のみにて消散に附する電

力は以て全市の電燈を點火するに用ひて餘ありと云ふ技師の計算に據れば架空式電氣鐵道

會社〓て其消散電力を利用するの目的を以て十五〓〓の資本を投じて蓄電池を備へ附ると

きは是が〓〓に〓〓の〓〓〓〓〓七萬弗の增加を見る〓なり〓〓〓〓〓〓〓業の〓〓〓〓

望なりと云ふ可し云々

〓〓の〓〓次第にして米國に於ける蓄電池事業は〓る五六箇月間に近來未曾有の進歩を現

はし今や將に實業世界の一大勢力と爲る可き模樣あり現に費府蓄電池會社の如きは其株式

の價俄に暴騰し僅に三四箇月前には四十弗内外の相塲なりしものが目下七十弗乃至八十弗

を以て賣買せらるゝに至れりと云ふ近頃は我國にても次第に電氣事業の流行を催ほし來り

たれば世間一般に盛に蓄電池を使用するの時期も遠からずして到來するに相違ある可らず

世の實業に從事する者の須らく注意研究す可き所なり