「八方美人は八方に美ならず」
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本文
八方美人は八方に美ならず
政府部内には自由黨と當路者との結托を喜ばざる者あるが如しと云ふ自由黨の末流にこそ
或は多少の異論を生ずることならんかと思はれたれども政府は多年味方なきに苦みたるこ
となれば有力なる政友を得たるに付ては滿面喜色を催す可しと思ひの外、自由黨に在ては
至る所萬歳の聲のみにして却て政府部内に不滿の者あらんとは甚だ不思議なれども變則の
代議政治より正則に移らんとする際なれば多少の變態は免れざることゝして扨て其始末を
如何せんと云ふに愈々部内に物論を生じて纒め難きに至ることもあらば異論者を追出して
〓然决戰を覺悟するか又は自から野に下りて自由黨と進退を共にするか二ツ一ツの决斷の
外に名案はある可らず或は自由黨を離縁して再び元の超然主義に立戻るも一策なれども下
流社會の婚姻の如く朝に結びて夕に離るゝが如きは如何にも輕卒の擧動にして啻に當人の
信用を損するのみならず亦徒に政治界を亂すものなり元と此結托は偶然の出來事に非ず議
會開設以來此に六年、年として政府と議會との間に紛議を見ざることなし政府が右せんと
云へば議會は左す可しと云ひ恰も一輛の車を前後より挽かんとするが如くにして國事は其
中間に介まりて進むを得ず双方共に不如意を感じたる次第にして六年間の經驗は議會に多
數を得るの必要を繰返へし繰返へし當局者に敎へたるなり左なればこそ今度思ひ切て政黨
の門に入りたるものにして是れより順を追ふて進めば遂に責任内閣となり此に政治上の一
進歩を見ることなるに部内に異論あるが爲めにとて折角順に向ひたる政治を引戻して又元
の混沌界に投ずるは遺憾至極にこそあれば萬一部内の政友と絶つか但しは自由黨と絶つか
二つに一つを撰ばざる可らざる塲合とならば寧ろ部内の政友に絶ちて力能ふ可くんば自由
黨を率ゐて政府を組織し能はずんば異論者に政柄を讓り自由黨と共に野に運動して又來ん
春を待つ可し斯くの如くすれば政界一新の功名は自から其人に歸するのみならず前後に挽
かれて動くこと能はざる政機も自から運轉して歸す可き所に歸す可し男子に貴ぶ所は决斷
〓〓〓〓〓〓も非ず〓するにも非ず白とも付かず黒とも〓〓〓〓〓昧糢糊の〓〓〓〓する
は婦女子の事にして〓〓〓〓〓や角、世〓〓も批評せらるゝも主として此〓〓〓〓〓こと
なれ〓〓〓〓に敵とし味方は公然味方として〓〓〓〓〓去就を决す可し八方美人の政略は
既に世人の厭ふ所なり