「歐洲航路の補助」
このページについて
時事新報に掲載された「歐洲航路の補助」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
歐洲航路の補助
前日の紙上にも記したる如く日本郵船會社にてはいよいよ歐洲の航路を開くことに决し實
地の取調並に船舶注文の用を兼ねて支配人小川〓吉氏を歐洲に派出せしめ又取締役莊田平
五郎氏も引續き出發したり右の一行は凡そ半年にて歸朝の筈なれども大抵の計畫は既に定
まりたるが故に取り敢へず在來の船舶を以て來年二三月頃より開始の見込なりと云ふ抑も
郵船會社は日清戰爭に際し其船舶を御用船に供したる爲め臨時の収入少なからず其収入は
正當に株主の利益に歸す可き筈のものにして之を銘々に分配するに何人も異議はある可ら
ず前年西南戰爭の時、三菱會社は御用船の爲めに非常の利益を得て社の富を成したること
あり株主の私に於ては利益の分配こそ望む所なれども目下の時勢を顧みれば海外航路の擴
張は眼前の急にして國家の力を以て其事を助成せしむるの必要は一般に認めながら國會の
如き例の始末にして何分にも其運びに至らず空しくも一年を經過して時機を逸するは堪へ
難き所なりとて公益の爲めに私情を抑へ自から率先して航路の開始と决したるは殊勝の心
掛と云はざるを得ず左れば會社の計畫は公益の爲めとは云へ幸に臨時算外の利益ありたれ
ばこそ斷行に决したることなれども臨時の益金とても自から限りある其上に西洋の諸國に
比すれば日本の航海業は尚ほ幼稚にして肩を並ぶるは容易ならず今回の計畫とても先進の
諸會社と競爭など最初より〓念掛けざる所にして兎に角に其仲間に入りて事を〓〓するを
得ば滿足この上もなき次第なれども彼の諸會社は年來の經歴に信用も厚く且つ本國政府よ
りの補助金も少なからざる其處に後進の一會社が素手にて仲間入りとは容易ならざる〓に
して會社の自力のみにて到底永續の望はある可らず會社が自から奮發して公益の爲めに事
を企てたる上は國民たるものも决して傍觀す可きに非ざれば政府に於ても議會に於ても必
ず其邊の考はあることならん試に我輩の所見を以てすれば歐洲航路の補助は今の會社の補
給八十八萬圓を增して毎年凡二百萬圓も給したらば實際に過不及なくして永く事を繼續す
るを得べし會社の株主は國家の公益の爲めに私利を犠牲にして事に着手したり之を助けて
目的を成さしむるは國家〓〓〓なりとして敢て政府議會に勸告するものなり