「臺灣嶋民の處分」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「臺灣嶋民の處分」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

臺灣嶋民の處分

臺灣に蜂起の草賊は一時猖獗を極めて爲めに内國の人心までも動かしたれども其後格別の

こともなきが如くなれば我兵の剿討に遭ふて昨今は大抵鎮定に歸したることならん深く掛

念するに足らずと雖も此一嶋を支那政府より割讓せしめ實際日本の手に収めたるは昨年の

六月にして既に半年以上を經過したり尤も其後反賊平定の爲めに少なからざる時日を費し

たれども今尚ほ草賊等の蜂起を免れずして全嶋掃蕩の效を見る能はずとは緩慢の感なきを

得ず抑も該嶋の始末に就ては日支兩國の全權が馬關にて會見の折、彼は屡ば嶋民の御し難

きを云々して我注意を促し又引渡しの際にも彼の委員は呉れ呉れ忠告する所ありしと云へ

り本來嶋民等は例の支那根性にして頑冥容易に移らざるは天性に於て然るのみならず前年

佛國のクルベー提督が艦隊を以て澎湖嶋を占領し續て鷄籠を砲撃して臺灣の一部に據らん

としたれども兵力足らずして目的を達せざりしより嶋民等は之を認めて以て佛軍を撃退し

たるものと爲し今に至るも尚ほ悟らず其心に謂らく世界の強國たる佛人さへも吾々に對し

ては志を逞ふするを得ず况んや日本人の如き一時は跋扈すれども到底吾々そ壓し得るもの

に非ずとて自から信ずること甚だ固く表面には從順を粧へども内實は全く反對にして支那

の厦門邊に遁れたるものも其數少なからず是輩は陰然大陸の力を頼みにし竊に嶋耻の同類

と氣脈を通じて回復の計畫に餘念なしと云ふ即ち今回の蜂起の如きも斯る事情より來りし

ものにして今後とても注意を怠るときは再發なきを期す可らず又嶋地に居留の外國人等も

年來不取締なる支那政府の治下に生活して我儘勝手の擧動も少なからざりしに日本の版圖

に歸してよりは從前に比して窮屈を感じ何となく面白からざる樣子あり外國の新聞紙など

に散見する種々の流言は此邊の意味より出づるもの多しと云ふ右の如き次第にして臺灣の

處置如何は單に内國の人心に關係するのみならず支那人は勿論、外國人等も共々に眼を凝

らして我國の擧動に注意し其失策を見て竊に喜ぶの情なきに非ず恰も觀客四周の舞臺に日

本人の伎倆を試むるものにして自から國の信用にも關することなれば徒らに事を遲緩して

笑を四方に取るが如きは斷じて許さゞる所なり抑も彼の嶋民は種々の種類の集まりたるも

のにして進歩の度も自から一ならざれども頑冥不靈自から悟らず竊に禍心を蓄へて動もす

れば反噬を逞ふせんとするは何れも同樣にして到底恩を以て馴らす可きに非ざれば要する

に全嶋を蠻民の巣窟と見做して毫も區別することなく飽までも威力を以て之に臨み只管懾

伏せしむるの外に手段ある可らず今回の騒動の如き實を云へば此上もなき好機會にこそあ

れば其騒動は鎮定に歸するも苟も一旦反對を試みたるものは一人も漏さず嚴刑に處して醜

類の跡を絶つは勿論、或は厦門邊に遁れたる輩にして竊に氣脈を通じたるの證跡明白なる

ものもあらんには直に支那政府に掛合て〓〓を處分せしめ今後大陸との交通の如きは取締

を〓〓にして固く禍〓を〓絶す可し或は如何に蠻民の輩なれば〓〓單に嚴重な處置は外國

人などの見る所、如何〓〓〓〓その掛念もあらんかなれども彼の文明國と稱する異国人が

未開の野蠻地を征服したる始末を見るに其處置の果斷なるは人の耳目を驚すばかりにして

日本人が臺灣に於けると同日の談に非ず畢竟彼の嶋民等を有文の種類と見做せばこそ斯る

掛念も生ずることなれども實際に彼等の擧動は亞非利加の内地又は南洋邊の啖肉人種も啻

ならざる程にして其殘忍暴戻、决して人類として見る可きものに非ず事實の明白なる所な

るに然るに文明流など唱へて彼等の放縦に任せ俗に云ふ飼犬に手を噬まるゝの不始末を屡

ばすることもあらんには寧ろ世界の物笑とこそなれ誰一人として賞むるものはある可らず

左れば何は兎もあれ先づ一大打撃を加へて飽までも彼等の頑冥を懲らし自から悟らしめた

る上にて善後の處置に及ぶこそ未開の蠻民に對する相當の順序なる可しとして我輩の大决

斷を勸告する所なり