「鐵道改良斷行す可し」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「鐵道改良斷行す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

此際に全國鐵道の仕組を改めて現在の狹軌道を廣軌道に一變す可しとは前號の紙上に我輩の勸告したる所なるが昨今世間の有樣を見れば改良の機會正に熟したるものの如し既に山陽鐵道會社の如きは東海道の官線を原價にて拂受け全線を廣軌道複線と爲すの計畫にて其成功を五年間に期し引續き神戸より馬關に至る會社の線路をも同樣の仕組に改め車輌其他一切の用意も新奇完全のものを具へて其運用を敏活にし斯くて東京より馬關まで七百哩の間に廣軌鐵道を一貫して途中に接續乘換を要せず速力の如きも現在に倍加して直通駛行を期す可し云云の趣意を以て出願に及びたるに政府にては如何なる次第にや直に願書を却下したるよしなれども思ふに此事たる單に會社の發意に止まらず世間の一般に希望する所にして會社はたまたま其希望を代表したるまでのことなれば若しも政府に於て其希望を容れ民間に一任するときは事の成就は必ず疑ふ可らず我輩は只實際の實行を望むものにして官業にても民業にても其邊には全く頓着せざることなれば政府の意見にて民間に委ねて不安心とあれば須らく自から决斷して速に行ふ可し目下の機會を空ふして他日に後悔の種を遺すは斷じて取らざる所な〓〓〓兩軌道の利害得失は理論に於ても實際に於ても既に已に明白にして當局者と雖も仕組の改良に異論はなきことならん只考ふ可きは費用の一點なれども民間に一任すれば其支出は必ず引受く可しと云ひ又政府にて自から着手と决するときは差當り償金の中より支辨するなり又は公債を募集して之に應ずるなり費用の出處に窮することはある可らず其方法は何れにしても差支なければ只事の决斷を望むのみ若しも目下の機會に斷ずること能はずして今日の儘に日一日を經過せんか日本の鐵道は次第に世界進歩の大勢に後れて今後幾千哩の延長を見るも實際は幾百哩の用を爲すに過ぎずして到底社會の發達に伴ふ能はず一般の人民はますます不便を感じて苦情百出始めて悔悟の曉には國中の線路、縱横に延長して改良の容易ならざるを發見す可し愚の至りのみか現在の仕組にて戰時の輸送に非常の不便を免れざるは一昨年來の〓〓に明なる處なるに今後もしも一層重大の事件に際することもあらば如何にして其急に應ず可きや我輩の掛念に堪へずして切に斷行を望む所以なり政府既に斷行と决したらば〓に其案を具して之を議會に提出す可し若しも議會に於て聞かざるときは其責は全く議會に〓することなれば人民は更に議會に對して大に論ずる所ある可し〓〓の機會一日も猶豫す可きに非ざれば議會の〓〓〓〓〓〓に事を决せんこと我輩の敢て希望する所なり