「政府の人才」
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時事新報に掲載された「政府の人才」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政府の人才
政府の門戸を開きて大に民間有爲の士を網羅す可しおは我輩が多年政府の當局に勸告する
所なれども若しも氣を夷かにして在野の元老を容るゝ能はずとせば責ては文官試驗法を廢
止して民間小壯の徒を政府に入らしむるの便益を計らんこと當今の急務と云ふ可し我輩は
必ずしも野に遺賢なしと云ふ古語を政治上の經典とする者に非ずと雖も政府の近情小壯人
物の欠乏を感ずること甚だしき殆んど其生存にも關係せんとするの勢あるを見て默々たる
能はざるが爲めなり抑も維新以降、我社會の組織は政治を中心として一切これより割り出
すの風なりしが故に種々の弊害これに伴ふを免れざりしと雖も之と共に兎に角、天下有爲
の人物を政府に集め政府は殆んど人才の府と云ふ可きものありたるは掩ふ可らざるの事實
なり是れ政府が幾多の失策不人望あるに係はらず猶ほ其生存を安固ならしめ得たる所以な
り然るに昨今の事態は果して政府に人才多しと云ふを得べきものなるか我輩聊か疑惑する
所なきを得ず或は衆議院中に愚物多きに比して漫に自から高しとして政府决して人才に乏
しからずと言ふものあらんかなれども憐れ淺墓なる立論にして取るに足らず撰擧政治は元
來才能絶美の士を撰ぶを主とするものにあらずして大智にあらず大愚に非ず大惡にあらず
大善にあらず云はゞ種々錯綜したる萬人の希望注文互に相殺して凡庸通俗の人を撰出する
こそ其本來の極意なれば衆議院に愚物多きは必然の勢にして人望と實力によりて其生存を
支ふるの外なき政府が之と比較して自から足れりとするが如きは以ての外の事と云はざる
を得ず况んや衆議院の衆愚政府の官吏に比して决して愚ならず若しも僕等をして官吏の有
する便益を有せしめば今日の官吏と智愚何れに采配を上ぐ可きや甚だ疑はしきに於てをや
若し夫れ去て實業界に於ける人物と政府の人物とを比較せんには政府が人才の府たらざる
こと愈々以て明白の次第なるを見る可く滔々たる人才相率ゐて政府を去て實業界に入らん
とするを見ては大勢の向ふ所を卜す可きに非ずや今日の政府は圓滿の政府に非らず其政策
は萬民を滿足せしむ可き大經綸のみに非ざるは政府自らも識認する所なる可し已に國民に
渇仰せらるゝ福德圓滿の政府に非ざる以上は其實力、才能に於て天晴れ天下を嚮導し國民
をして厭や厭やながらも之に服從せざる可らざらしむるこそ其生存第一の策と云ふ可けれ
然るに政府近日の事情を見るに思慮此に及ばざるものは如何なる次第にや我輩の怪訝に堪
へざる所なり在野の元老を容れて其政策を用ふること或は凡俗の人情として爲し難き事な
りと云ふか是れ亦可なり然らば何故に其門戸を開きて少壯有爲の士を入れざるや文官試驗
法の如き窮屈千萬なる法律を墨守して空しく天下有爲の少年を驅逐し唯英佛の文章に巧み
に算數を善くする技藝者を取り政府萬々歳と信ずるは果して眞面目の沙汰か勿論文官試驗
法の設けられし當時にありては其〓〓の〓〓應じたるものなるは我輩も又これを〓〓ず〓
〓〓〓〓〓〓れば〓〓〓〓〓せざる可らず之を今日に〓〓〓〓は〓の〓〓〓〓〓〓きや我
輩は政府が〓に〓〓〓〓〓〓〓して〓〓〓〓〓〓自から生存を〓〓た〓〓〓〓ことを勸告
するものなり