「政府の對自由黨策」
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本文
政府の對自由黨策
板垣伯は兼て噂の通り昨日を以ていよいよ内務大臣に任ぜられたり伯の入閣は我輩の毎度
述べたる如く至當の成行にして毫も怪しむに足らざることなるが聞く所に據れば政府は自
由黨への報酬として板垣一人は入れたれども多數の黨員を悉く官吏に用ふ可きに非ず左れ
ばとて其儘に捨置くことも出來ざれば一時の彌縫策として其輩に實業の地位を授けんとす
るの魂膽もあるよし我輩は此風説の眞僞如何を知らずと雖も彼等の鋭氣を實業界に洩らさ
しめんとするに至ては掛念に堪へざる次第なり抑も御用商人の弊害は社會の一般に認むる
所にして過去二十八年間に實業の發達を妨害したるものありとせは御用商人の如き最も甚
だしきものと云はざるを得ず從前の御用商人なるものは二三の官吏に結托して政府買入品
を受負ひ其間に種々の手段を運らして不當の利益を得るに過ぎざりしかども尚ほ且つ實業
界を荒らしたること彼の如くなりしに今や政黨の勢力を擁し政府議院の内外に威柄ある徒
をして實業界に跋扈せしめたらんには恰も右手に政權の白刃を携ひ左手に商賣の帳簿を携
ふるものにして實業界に一種のマホメツト派の如きものを見るに至る可し彼の米國ニウヨ
ーク府のタマニー倶楽部が政黨の本部として政商を兼ね一切の商賣營業を壟斷して暴利を
収めたるが如き又近くは我東京市會議員の間に勢力を逞うして水道工事に私曲を行はんと
する輩を生じたるが如き其適例にして政府が一方に自由黨の總理を内に入れながら一方に
其黨員輩に實業の地位を與へて鋭氣を洩らさしむることもあらんには其結果は今より想像
するに難からず折角に發達整理したる今の實業界は之が爲めに攪亂せられて眞實正經なる
良民の迷惑此上もある可らず政府は國の脊髓とも云ふべき實業界に斯くまでの迷惑を蒙ら
しめても尚ほ且つ是種の窮策に出でんとするか政府が自由黨と結托したるは自家の都合に
出でたることにして其始末に窮するは自業自得、傍より心配するの限りに非ずと雖も若し
も實際に風説の如く彼の黨員輩の鋭氣を洩らすが爲めに實業を犠牲に供せんとすることも
あらば我輩は斷じて反對す可し敢て一言する所以なり