「臺灣の鐵道」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「臺灣の鐵道」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

臺灣の鐵道

拓殖務省は新に設けられ臺灣總督府その他の官制も發布せられて臺灣施政の機關全く組織

を終りたれば嶋地の事もおひおひ緒に就くことならんなれども目下の急は何は兎もあれ早

く多數の内地人を移住せしめて新領地の風俗を日本化せしめ以て眞實我版圖たるの實を擧

るに在り而して人民を移住せしむるには定期航海を開き往復を頻繁にし交通を便利にする

は勿論、或は永久移住の者には特典を與へ無賃にて乘船せしむるなど自から奬勵の工風も

あらんなれども既に嶋地に多數の人を容れて永住せしめ農業なり製造業なり各種の企業を

促して其發達繁昌を期せんとするには先づ政府の力を以て彼の内地の運輸交通を便にし如

何なる塲所に移住し如何なる事業に着手するにも甚だしき不自由を感ぜしめざる丈けの用

意はなかる可らず現在の如く未開地同樣にして第一に歩く道さへもなき有樣にては海上の

往復に特典を與へて移住を奬勵するも其地に留まりて業を營むの心を生ずるものなく又實

際に營むことも能はざればなり政府の計畫を見るに航海に保護金を與へ又差當り道路の開

通には着手する筈なれども嶋地の運輸交通に最も肝要なる鐵道築港は單に調査の費用を支

出するに止まるのみ堪へ難き次第なりと云ふ可し港灣の如きは不便ながらも從來の開港塲

ありて船舶の出入も全く難きに非ず且つ築港の計畫は大事業にして自から調査の必要もあ

らんなれば多少の延引は尚ほ忍ぶ可しとするも鐵道の敷設に至りては既に支那人も着手し

たる程の次第にして誠に容易の業なるに何故に調査の爲めに猶豫の必要あるか過般の戰爭

に我軍が渤海灣に入りて敵國の海岸に上陸の曉には山海關の邊より天津もしくは北京まで

直に鐵道を敷設し内地に侵入するの計畫にて既に一切の用意も整へたるよし臺灣の事は戰

時と同樣に見る可らずと雖も既に我手に入りたる上は一日も早く版圖の實を擧ること必要

にして我輩などの考にては嶋地の受領匇々軍事費を以て鐵道の敷設に着手し兎に角に南北

を一貫する幹線を通ずること何の爲めにも急務なりと認めたれども既に其决斷なかりしの

みが今度の計畫にも尚ほ其着手を見る能はずとは返す返すも遺憾と云はざるを得ず然りと

雖も國費の支出は豫算に由るの法にして假令ひ事の急とは云ひながら鐵道敷設費の如き今

更ら自由の支出は法に於て許さゞる所なり左ればとて此儘にして更らに來年度を待つは到

底堪へ難きことなれば斷然民設の事業として速成を期せしむるの外に手段ある可らず民設

の業とすれば内國の例に據るも政府より幾分の利子を保證す可きは至當の例に據るも政府

より幾分の利子を保證す可きは至當の處置なれども是又議會の協賛を要するが爲めに空し

く一年間を費すが如き始末にては致方なければ金錢の補助は一〓〓〓にする其代りに線路

に沿ふたる方〓〓〓〓〓を〓〓の〓〓を期して會社に附與し自由に〓〓〓しむることゝな

す可し彼の〓地殊に鐵道の通過す可き地方は大抵樟林の多き處なりと云へば會社にては〓

〓〓を〓〓製造人に賣渡すなり又は會社〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓り其の手〓〓〓〓にして

も之が〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓なれ〓〓〓〓〓〓〓〓るときは〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓自か

ら〓〓〓〓〓〓に着手す〓〓も〓〓〓可し〓〓土地を會社に與ふるは專賣の特典を許すも

のなりとの反對説もあらんかなれども鐵道沿路の土地を會社に與ふるは西洋にも其例ある

のみならず其これを與ふるは外國人に與ふるに非ず日本人に與ふるものにして且つ年限を

限ることなれば决して差支はある可らず政府自から敷設に着手せざる其上に彼れ是れの故

障を唱へて民設の業をも自由ならしめざるときは嶋地の運輸交通は依然今日の不便に安ん

ずるの外なし運輸交通、便ならざれば人民は容易に移住せず、人民移住せざれば土地開け

ずして殖産興業の望はある可らず産業の望なければ臺灣は只是れ無用の厄介物に過ぎざる

のみ苟も人を招かんとならば先づ以て膳立の用意肝要と知る可きなり