「パスツールの紀念像に義捐す可し」
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時事新報に掲載された「パスツールの紀念像に義捐す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
パスツールの紀念像に義捐す可し
近來我國民の間に日本は東洋の強國なりとの自信を生じたるは最も喜ぶ可きことなれども
既に強國の人民を以て自から任ずる以上は外國の交際に自から相當の義理を盡すも亦已む
を得ざる事なりと覺悟せざる可らず然るに從來國交際の間に於て兎角盡す可き義理を盡す
こと能はざりしは我輩の深く遺憾とする所なり例へば前年美濃尾張の大地震の時に際し外
國人は罹災者救恤の爲めとて遙々義捐金を贈り來りしもの少なからず其他學問宗敎の事柄
に於ても彼より受けたることはあれども我より與へたることは甚だ稀れなり否な殆んど絶
無と云ふも可なり其趣は恰も新に家を起したる者が富豪舊家より毎々饗應を受けながら此
方よりは未だ之に酬ひざるが如し與ふるも受くるも銘々の自由意志に出ることにして之に
由て權利を異にす可き道理はなけれども俗界の事は道理のみを以て律す可らざるものなれ
ば他より受くること多くして與ふること少なければ自から權利勢力を減ずるを免れず國民
の體面を保つ所以に非ざるなり故に我輩は折もあらば世界共通の事業に對して我國民の義
金を投じて義理を盡さんことを望むものなるが聞く所によれば佛國の有志は今回學士パス
ツールの像を建立せんが爲めに普く世界有志の義金を募らんとして既に我國へも紹會し來
れりと云ふ我輩は朝野の士人が速に之に應じて相應の金を投じて世界交際の義理を盡さん
ことを望むものなり抑もパスツールは佛國の一學士にして足跡曾て東洋に至らずと雖も學
問上の功蹟より云へば全世界の恩人にして海の東西、人種の異同を論ぜず等しく其澤を蒙
らざるはなし同氏が學問上の發見によりて如何に人類の不幸を救治するに功ありしかは昨
年十一月の時事新報に於て詳細に述べたることあれば讀者は必ず記憶するならん一言にし
て之を評すれば氏の功蹟は他の學者が二三の新事實を發見したるが如き此に非ずして幾多
の發明の母たる理法を發見し方式を定めたるに在りて其理學上の功蹟はニウトン、ワツト、
若しくはダルウヰンと等しきのみならず人類の生活に實際適切の幸福を與ふるの點に於て
は此等の學者よりも寧ろ大なるものある可し其二三を語らんに人間の疾病は原因なくして
偶発す可きに非ず必ず細菌より起るものたるを確定し亦ゼンナーの種痘法を細菌學より研
究し他の疾病にも應用して人間の身體は或る方法を以て免疫し得べきものたるを斷定し遂
にコツホをして彼の如き大功を〓せしむるの基を成し又細菌學の原則を〓〓法の上にも〓
用して發酵、腐敗の問題に解釋を與へたるが如き其最も著しきものなり佛人がコ〓以後の
大〓〓、ナポレオン以後の一大偉人として之を敬慕するも偶然に非ざるを見る可し我國人
の如きも其説を醫術、釀酒もしくは養蠶等の上に應用して不幸を免れ實益を収め今後ます
ます其恩澤〓〓〓〓とすることなれば今其像を立て〓の功德を永〓〓〓〓せんとするの〓
〓を〓る〓他の〓〓〓〓〓る〓〓〓〓し〓當〓〓〓〓〓〓〓〓んや其事を助けて相〓〓〓
〓を〓すは〓〓〓〓の〓利のみならず〓により〓〓〓〓民の文化〓世界の偉人に對して其
功〓を識認するの程度に達したるを示して國民の信用に關すること亦少小ならざるに於て
をや敢て朝野士人の一考を促すものなり