「マツキンレー氏の當撰」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「マツキンレー氏の當撰」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

マツキンレー氏の當撰

去る十九日ニウヨークより本社に向て特發したる電信は米國セント ルイ市に開きたる合

衆黨の大統領候補者豫撰會に於てマツキンレー氏の當撰を報ぜり共和黨の豫撰會は未開に

て何人が推撰さるべきか知る可らざれども近來同黨の勢力振はざるに反て合衆黨は恰も日

の出の勢にて全國を風靡せんとする有樣なれば其候補者たるマツキンレー氏は取りも直さ

ず次期の合衆國大統領に當撰したるものと見るも差支なかる可し扨この人がいよいよ大統

領たる曉には今日の共和黨政府に代るに合衆黨政府を以てすることなれば米國の政界は素

より多少の變動を免れざる可し其變動が我日本に及ぼす所の影響は如何と云ふに先づ差當

り我國に關係あるものは金銀問題關税問題日本品排斥問題等なる可し而して金銀問題に就

ては合衆黨の大統領候補者豫撰會に集りたる十州の代表者は萬國一致して複本位制度を採

用するに至らざる間は金貨本位を維持し銀貨の自由鑄造に反對す可しと决議したる由なれ

どもマツキンレー氏は銀黨中の有力者なる其上に合衆黨の重立たる人々の中には銀山を所

有して常に銀價の回復を願ひつゝあるもの多しと聞けばマツキンレー氏の當撰は少なくも

銀の爲めに此上不利益なる政略を取るが如き懸念はなかる可し故に日本の如き銀貨國は差

向き金銀の釣合ひに大變動なしとして安心す可し次に關税問題に就ては同氏は有名なる保

護税論者なるに米國にては近來頻りに日本製造品の排斥運動行はれ本年一月シカゴ市に開

きたる米國製造業協會の大會に於ては滿塲一致を以て日本品排斥の爲め保護法を發見せん

ことを代議院に建議するの决議をなし又本年三月子ヴアダ撰出代議士ニユーランヅ氏及び

ミン子ソツタ撰出代議士トーニー氏は日本品排斥に關する決議案を代議院に提出したるこ

とあり殊に合衆黨は此問題を以て大統領の撰擧を爭はんとまで熱心し居る由なればマツキ

ンレー氏にしていよいよ就任の曉には現行の關税法を改めて大に保護税主義を擴張し隨て

日本品の輸入に對して排斥の政略を採る可しと憂慮するものもあらんかなれども我輩の所

見を以てすれば凡そ撰擧競爭の際に撰擧人多數の歡心を買はんと勉むるは何れの國にても

同一にて之が爲めには隨分心にもなきお世辭を振りまき勉めて撰擧人の意を迎へて議論す

るの常なり其例は我邦の議員競爭に就ても知らるゝことなれば况して米國の如き撰擧競爭

の激しき國にては一層の甚だしきものあるべし左れば其競爭の際にお世辭半分に喋々した

る議論を以て他日悉く履行さるゝものと信ずるは誤りにていよいよ當撰して實際の事を議

する塲合となれば自からの其の議論の〓も變せざるを得ず况んや大統領の如き樞要なる〓

〓に就き一國の安危を雙肩に擔はんとするものに於てをや故にマツキンレー氏が當撰せば

直に關税法に大改革を加へ又日本品に對して排斥論を採用す可しと信ずるが如きは大早計

と云はざるを得ず我輩は同氏が當撰の〓に〓して〓〓〓の爲に其人を得たるを祝するもの

なり