「地方警察」

最終更新日:  2021年12月25日 (3年前)

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目次
    1. このページについて
    2. 本文

1. このページについて

時事新報に掲載された「地方警察」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

2. 本文

政治の目的は人民の生命財産を保護するを第一にして警察制度の完不完は最も注意す可き

所なり我輩の所見を以てすれば今日其制度の稍や完良と稱す可きは東京即ち警視廳直轄の

區域内にして各地方に至りては尚ほ改良を要するの點少しとせず昨年馬關に於て日清兩全

權の間に媾和談判の進行しつゝありしとき一兇漢が彼の全權を狙撃したる不慮の事變より

忽ち談判上に一頓挫を與へたるは今尚ほ世人の記憶する所ならん國家重大の塲合に際し警

察の戒嚴一方ならざりしにも拘らず不幸にして斯る兇漢を生じたるは返へす返へすも遺憾

に堪へざる所なり政治的の警察事務に於て地方の不行屆なるは尚ほ恕す可しと雖も不通の

塲合にも實際中央警察に比して自ら遜色あるが如し近來屡々新聞紙上に現はれ人をして酸

鼻に耐へざらしむる彼の五人斬、七人斬などの慘話の如き不慮の出來事とは云ひながら亦

幾分か地方警察制度の不完全に歸せざるを得ず然らば其改良法は如何せば可ならんやと云

ふに細目の方法は素より多々あらんと雖も試に二三の要項を擧げんに彼の地方に於て巡査

を配置するに人口の多寡を標準とするが如きは當を得たるものに非ず繁華なる都市に在て

は人口と地幅と略ぼ相比例するが故に何千の人口に巡査何名といふが如き計算法も強ち無

稽に非ずと雖も僻陬の地に至りては何百何千の人口は實に幾方里、幾十方里を占むるの常

なるに斯る茫漠たる地域の中に人口に比例して僅々の巡査を配置したりとて事務の行屆か

んこと思ひも寄らず机上の杓子定規は民情の實際に適はざること多し地方の議會に於て警

察費の年額を定むるに人口の多寡を以て標準となすが如きは實際に適したるの處置とは云

ふ可らず或は大體の方針に於ては人口の多寡、土地の廣袤を目安とするも不可なからんか

なれども事の實際に當りては少なくも人民の風俗氣質交通の便不便商工業の情態犯罪人の

種類及び多寡四隣の形状等を細査し土地の必要に應じて配置の人數を加減すること必要な

る可し次に地方警察の不完は警官其人に経驗熟練の足らざるも自ら一原因なる可ければ事

務に差〓なき限りは中央警視廳と各地方との間に時々警部巡査を交換して地方の警務に新

知識を注入するも亦是れ改良の一策なる可し又地方警察に於て注意す可きは探偵吏の下に

使役する俗に犬と唱ふる輩の人撰を謹しみ且つ其監督を嚴にすること是れなり彼等は大抵

無ョの徒にして事に當りて寄功を奏することあれども往々愛憎の私意を逞うして公務の公

平を誤ること少なからずといふ諺に所謂蛇の道はへびにして探偵の方便としては自から斯

る輩を使役するの必要もあることならんなれども〓にへびの性質を知りながら之を使ふ上

は其〓〓を嚴にして毒を逞うせしめざるの用意なかる可らず若しも然らざるときは彼等は

一方に官の威光を〓り一方には惡徒の仲間に通じて良民を苦しむるに至る可し呉れ呉れも

注意す可き所なり尚ほ我輩の〓〓を以てすれば地方に於ては官民の懸隔、尚甚だしく〓〓

の〓が〓ならざるが爲めに普通の警察は兎も角も〓〓〓〓〓の事に當りては往々痒き處に

手の屆かざるの遺憾も少なからざれば市町村に一種の自治的警察機關を設け府縣の警察と

氣脈を通じて警務を圓滑ならしむるが如きも時宜に適したる一法なる可し兎に角に地方の

警察に改良を要するの點少なからざるは實際の事實にして我輩の屡ば耳にする所なれば聊

か二三の事項に就て注意を促すものなり