「鐵道會社の大小」
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時事新報に掲載された「鐵道會社の大小」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
鐵道會社の大小
近年來鐵道流行して各地方に敷設の計畫甚だ多く小會社の續續發起するよりして世間にては或は大會社の利益を説き其合併を主張するものあり如何にも尤もなる説にして小鐵道會社の續起して各地方に個個別別の小線路を見るは决して國家經濟の利益に非ず小會社なりと雖も其經濟は獨立にして重役事務員技師等の職員は自から欠く可らざるのみならず汽鑵車列車を始めとして諸器械の如きも夫れ相應に備ふるの必要あるが爲めに營業費は自から其割合に嵩むに反して大會社の利益を云へば役員の如き組織の大なるが爲めに必ずしも多きを要せず其他汽鑵車列車等の差繰より工事營業の點に於ても諸種の便宜少なからざる尚ほ其上に例へば今回の如き暴風雨の災變の爲めに線路破壞して損害を蒙ることあるも小會社ならんには其損失は非常にして或は利益の配當も覺束なきに反し大會社なれば一部分に損失あるも他の部分の利益を以て之を補填するお便利ある可し鐵道營業の一方より見れば大鐵道の利益は明白にして疑ふ可らず其組織の次第に大に赴くは經濟上自然の傾向なれども扨目下の實際を如何と云ふに我國の鐵道は尚ほ幼稚の域に在り其延長は僅僅二千何哩に過ぎずして今後多多ますます敷設の必要あり此點よりすれば今日の急は何は兎もあれ唯その敷設の多からんことこそ希望する所にして其他は問ふに遑あらざる塲合なれば大小の利害を喋喋して苟も敷設の計畫を躊躇す可きに非ず左れば各地方に小鐵道の續續發起するは毫も掛念するに足らずとして政府は其出願に對して颯颯と許可を與ふ可し斯くて諸方に小會社の續起を見る其結果は如何と云ふに自から相應の利益は疑なくして營業に差支なきは勿論なれども經濟上自然の成行よりしておひおひ合併の必要を生じ誰れ云ふとなく其勢を促して日月を經過する其間には遂に大組織を見るに至るや必せり數の明白にして毫も疑を容れざる所なり故に今日に於ては大小の利害を云云せんよりも大にても小にても只其計畫の多くして線路の一哩にても延長せんことを目的とし出願に對しては躊躇なく敷設を許して兎に角に交通の便利を開くこと肝要なる可し我輩の敢て望む所なり