「列國東洋艦隊の勢力 附浦潮斯德及び香港の近況」

last updated: 2021-08-22

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時事新報に掲載された「列國東洋艦隊の勢力 附浦潮斯德及び香港の近況」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

目下英、米、佛、露、獨、伊、米六強國の東洋に於ける派遣艦

隊の勢力を視察するに日淸戰爭前後の比較左の如し

主戰艦 裝甲巡洋艦 二、三等  砲艦  合 計

一等巡洋艦 巡洋艦

隻                  隻 噸

日淸戰 一  一   七       九  一八 四一、七二〇

爭前

現在  一  四   六      一〇  二一 六一、二〇〇

前      一   二       二   五 一〇、〇六四

現      三           一   四 一四、七五〇

前      一   五       四  一〇 二四、一七四

現   一  四   三       八  一六 五三、六五〇

前                  二   二    九七八

現   一      四           五 二〇、四九〇

前                  一   一  一、〇五六

日淸戰爭中三等巡洋艦三隻を增派したれども其後皆歸國せり

前       三      一       四  八、五六〇

現   一   三      二       六 一五、三〇〇

水雷艇は現在英は二隻(破壞艇)露は戰爭前十隻、現在二十三隻にして其他の諸國は

未だ派遣せず

右の如く日淸戰爭後に至り歐米の五國が其東洋派遣艦

隊に一層の勢力を增加したるは戰爭以來形勢一變、東

洋に於ける利害の關係一層適實を感ずるに至りしが爲

めにして目下の有樣より考ふれば彼等は今後ますます

其勢力を增すとも決して減ずることはなきのみか一旦

事の必要に際するときは基本國もしくは東洋附近の海

鎭より艦艇を分遣して或る程度までは其勢力を高め得

ること勿論なり而して右の諸國中にて東洋の方面に最

も適切の關係を有するものは英露の二國にして現在派

遣の艦隊も他の諸國に比して著しき相違を見る其上に

ますます進んで勢力を擴張せんとするの事實は最も注

目す可き所のものなり先づ露國の計畫を見るに頻りに

東洋艦隊の勢力を增して現在の數に上りたるにも拘は

らず今回更らに主戰艦一隻、一等巡洋艦六隻、二等巡

洋艦、水雷巡洋艦各二隻、砲艦六隻及び水雷艇七隻を

增派するの企ありと云ふ此新勢力にして更らに加はる

ゝの日には露の東洋に於ける地位は更らに幾層の重き

を成すことならん亦彼の義勇艦隊は常にオデツサ港と

浦潮斯德樺太等との間を往復するものなるが露の政府

にては過般來海軍の補助後援たらしむ可き目的を以て

右義勇艦隊の擴張を謀り現に同艦隊は十四隻の汽船を

有する其中の五隻は一萬噸以上、然かも速力警戒、代

用巡洋艦として使用す可きものにして尚ほ同噸數のも

の五隻を新造の計畫中なりと云ふ又その策源地たる浦

潮斯德に於ては近來頻りに砲臺を增築して規模を擴張

し從來の等級を進めて二等軍港と爲し特に近頃は市外

の取締を嚴重にして同地古來の習慣として自由に許し

たる遊覽等も甚だ窮屈を感ずるに至りしと云ふ旦〓又

昨年來オデツサより便船の度ごとに一千五百乃至二千

の陸兵を輸送しつゝあるは實際の事實にして推測に據

れば浦潮地方のみにても既に十萬餘の守備兵を見るな

らんと云へり艦隊の增勢と云ひ策源地の擴張と云ひ以

て露國が東洋に意を用ふるの尋常ならざるを知るに足

る可し而して一方に於て英國の擧動は如何と云ふに恰

も亦勢力の擴張に汲々として他に一者を謀るものに

非ず全東洋の海鎭たる香港の如きは例年〓船〓を增築

し警備艦を改良して其用意オサオサ怠らず既に本年度

新造の主戰艦五隻(各一萬二千九百噸)は孰れも吃水を

淺くしてスエス運河を自由に通過せしむ可き設計なり

と云ふ蓋し一萬二三千噸以上の主戰艦は吃水則ち艦底

の水に入る深さ二十八九呎餘なるを常として該運河

(其深さ中央部二十七呎なりと云ふも實際は二十六呎

以内の吃水船に非ざれば差支なく通過するを得ず)を

通過するには搭載の石炭彈藥等を引卸して艦量を輕く

するか然らざれば喜望峰を迂回せざるを得ざる次第な

るに右の新造主戰艦は運河通過の事を設計の一條件に

加へたりと云ふ其目的の所在、自から察するに難から

ず又最近の報に據れば英國更らにレノーン、テリプル

の二艦を東洋艦隊に加へ其他四隻の大艦を在來の劣等

艦と交代せしむ可き豫定なりと云ふ若しも然るときに

は其艦隊の全勢力は九萬噸以上に達す可きなりレノー

ン號は今年の夏竣成したる最新式の一等主戰艦にして

東洋現在のセンチユリオンに比すれば排水量一千八百

五十噸を超過せり又テリブル號は世界第一の巨大なる

巡洋艦にして排水量一萬四千二百噸、速力二十二節そ

の姉妹艦パワアーフルと共に當春竣工を告げたるが最

初露國に於て大巡洋艦リユーリツク(現に東洋に在り)

の製造計畫あるを聞き之に拮抗せんとて起工したるも

のなりしに今や雙方共に東洋に派遣せられて日本近海

に於て互に相睥睨せんとす遭遇自から奇なりと云ふ可

し畢竟英露を始めとして世界の諸國が近來東洋艦隊の

增勢に汲々たるは利害の關係適切なるが爲めに互に

其勢力を進めて互に平均を保たんとするに外ならざる可

し其海表に國する日本國民たるものは常に此有樣に注

目し自國自衞の用意片時も怠る可らざるものなり