「先づ朝鮮より始む可し」
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時事新報に掲載された「先づ朝鮮より始む可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
先づ朝鮮より始む可し
新外務大臣は外交に經驗ある人なれば胸中自から經綸の策あることならんと雖も差當り注目を〓むは朝鮮の事なり其近状を見るに政治上に於ても商賣上に於ても日本人の勢力は次第に衰退して一時八道を風靡せし我感化力も今は地を拂て痕跡を留めず貿易の如きも戰後日本人の專らにしたるもの漸く去て支那人の手に歸しつつあり試に本年五六兩月に於ける日新兩商の輸入額を以て昨年同時期の輸入額に比すれば左の差異を見る
五 月 六 月
圓 圓
廿八年 日本國 二三四、三一八 二一一、六一〇
支那國 六一、三五六 三五、九八〇
廿九年 日本國 一二一、一二一 七〇、四四七
支那國 一八八、五七三 一〇一、八六五
我輩は固より朝鮮の政治上に野心を有するものに非ず期する所は只その貿易の利を利せんとするに在りて戰〓〓〓内政の改良に〓力したるも畢竟するに半嶋國民を導て文明富強の域に進ましめ以て彼我の商賣を盛ならしめんとの趣意なりしに前記の如く商権は次第に支那人の手に回收されて日本商人は顏色なし盖し我商人の意氣地なきにも因ることならんと雖も外交當局者の世話も行届きたりとは云ふ可らず朝鮮の如き不始末の〓に於ては何時如何なる邊に騷動起るやも計る可らずして生命財産も不安全なれば斯る國に於て商賣貿易を營ましめんには當局者の保護最も必要にして恰も老婆が愛孫を世話する如く萬事に注意し若しも惡戲小僧が亂暴を働くこともあらば或は嚴しく懲罰して將來を戒しめ或は菓子など與へて其歡心を買ふことも必要なる可し〓は倦まず怠らず商人の先導と〓り後援となりて安全を得せしむるに在り或は朝鮮政府に談ずるは糠に釘、力を以て壓するより外に手段なしと云ふ者もあらんかなれども現に或る國の如きは一兵を動さず寸鐵を用ひずして半嶋國政府を殆んど其掌中に弄するに非ずや外交術を施すに餘地なしとは云ふ可らず斯くて一方に於て保護を怠らざると共に他の一方に於ては啻に渡韓を妨げざるのみならず盛に之を奬勵して到る所に邦人をして新郷里を作らしむ可し在留人の數次第に増加すれば半嶋國の社會上并に政治上に於ても自から重きを有し直接間接に彼の國民を感化して彼我の貿易も自然に〓〓し〓には布哇の米國に於けるが如き關係と〓る可し移住は必ずしも遠き〓西〓、巴西に限らず朝鮮人を〓〓するの手段は只我顧問官を採用せしむるの一〓あるのみに非ず新内閣は國権を伸暢し貿易を擴張す可しと宣言せり先づ手近なる朝鮮より始めんことを希望するものなり