「新内閣は實際責任内閣なる可し」
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時事新報に掲載された「新内閣は實際責任内閣なる可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
新内閣は實際責任内閣なる可し
新内閣は責任内閣なる可し否な然らずとて政客の間には議論喧しきが如し過日發表したる施政方針を見るに此點に付ては文字頗る曖昧にして唯政府は議會の恊賛を完うせんことを務め至尊に對して大政の責に任ずと云ふのみなれば讀む人の所見如何に依て或は責任内閣の意味に解することを得べしと雖も十人が九人までは其反對に解釋することならん且つ樺山内務大臣の演説にも内閣は輿論を重ずと雖も必ずしも議會の向背に依て進退を决するものに非ずと云ひたる由前後の事情より推察して伯の口より斯る言の發せられしを疑はざれども然れども眞實、内閣は議會の向背に依て進退せずと覺悟したるに非ず其心底を叩けば竊に責任内閣を期するものにして若し試に議會が反對して政府の計畫を實にするを得ず一たび解散を行ふも尚ほ同樣にして輔弼の責を盡す能はずんば如何す可きやと問はば其衷心に於ては必ず潔く責を引いて辭職せんのみと云はん然るに施政の方針に之を明言せず内務大臣の口より前記の如き言を發したるは何故なるやと云ふに政治は活機なり如何なる變態を呈することあるやも計り難し或は黨派競爭の爲めに國家の大事を餘處に見ることなきを期す可らず立憲政治の常經として國民の信任を失ひたる内閣が責を引て辭職するは勿論にして二度も三度も議會を解散するが如き暴擧は固より敢てする所に非ざれども變に處しては自から變通の處置を要す萬一の塲合を想像すれば决して二たび議會を解散せざる可しと豫め約束する能はずとて心には責任内閣を期しながら表面には十分大事を取て右の如く演説したるものならん我輩は唯その用心深きを感ずるのみ特に近來著るしく民論の勢力増長したるを見れば假令ひ現内閣が眞實、議會の向背に依て進退せずと决心するも到底實際に行はれざることならん我が政黨は未だ十分に發達せざれば英國に於けるが如く政黨員を以て交る交る内閣を組織すること能はざれども其賛助を得るに非ざれば如何なる政治家も事を爲すに足らず超然内閣の主唱者も既に公然政黨の力に依頼し今度新内閣を組織するに付ても議會に多數を制するの見込ありや否やは最も大切なる箇條なりしが如し又嘗て議會に薩長の功勞を吹聽せしものも今は國民と共にするの必要を認め言論、出版、集會の自由も大に擴張す可しと云ふ民論の滔滔として〓る可らざる勢あるを知る可し松方内閣にも英雄なきに非ざる可しと雖も此勢に敵して二度も三度も解散するの勇氣ある可しとは思はれず况して責任内閣は啻に政友たる進歩黨にて之を唱ふるのみならず政敵たる自由黨も多年主張せし所なれば若し此説に逆ふに於ては物論内外に沸騰す可きは勿論にして政府は斃れざらんと欲するも得べからず又况んや新内閣は非常の决心を以て行政を改革し人材登用の路を開き所謂三大自由をも擴張して從來の面目を一新せんと期するものなれば獨り責任内閣論に於て輿論に逆ふの理由はある可らず左れば彼の施政方針も内務大臣の内閣論も只表面の儀式に過ぎずして實際に於ては必ず責任内閣の實行を見る可しと我輩は深く信じて疑はざるものなり