「官線賣却の方法」
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時事新報に掲載された「官線賣却の方法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
官有鐵道賣却の議は我輩の毎度主張したる處にして其利害得失は既に分明なる可し或は軍事上の一點より鐵道國有の説なきに非ざりしかども過般の戰爭に大輸送を實驗したる以來、官線にても私線にても實際の效用に相違なき事實は世人の認めたる所にして今更ら疑を存するものはある可らず只いよいよ之を賣却して民有に移すの一段に至り其方法に就て自から種種の掛念あるが如し第一には其價格を定むるに公平を得ること容易ならず第二には之を拂受けたる會社に獨占專有の權を與ふるの恐れあり第三には賣却の價格に相當する大金を一時に授受するときは金融上に非常の大變動を與ふ可しと云ふが如き重なる掛念の點ならんなれども是れ又我輩の曾て述べたる如く自から宜しきに處するの方法なきに非ず即ち代價を定むるは公債證書の發賣と同樣の趣向にして世間一般の競爭に付して價を定むることと爲さば自から相當の評價を得て不公平の嫌を免かる可し又一會社に付して專有の恐れあるときは之を三四の會社に分割して差支ある可らず而して其代金の始末に至りては素より國庫の内に藏め置くの必要なければ直に公債償還の資金に充つるも可なれども一時に多額の償還は急激に失するとならば政府は鐵道の營業を民有に移しながら尚ほ其會社の株主として資本の大部分を所有し若干の歳月を期して漸次に賣却することとす可し今試に其方法の大略を述ぶれば既成及び工事中の諸官線を
新橋神戸間及び横須賀武豊支線共 三九八哩
八王子名古屋間及び篠井鹽尻間 二二一哩
米原富山間豫定線富山直江津間
及び直江津高崎間 三五六哩
福嶋青森間 二三九哩
の四線に分て四會社に營業せしむることとして其賣渡の手續は例へば新橋神戸間及び横須賀武豊支線三百九十八哩を一會社の所有に歸するには明年四月一日以後の收入支出は會社の計算と爲し同日迄政府に於て支出したる金額及び複線工事等の爲めに其後支出す可き豫定額を以て會社の資本額と定め扨既に支出したる金額を拂込、又將來支出す可き豫定額を未拂込株金として假りに其資本額五千萬圓、拂込額三千五百萬圓、未拂込額一千五百萬圓とすれば總額五千萬圓を五十萬株に分ち一株の額面百圓の内、七十圓の拂込と見做して政府にて豫定價格を定めて一般に發賣し其申込★金★額の高きものより採用すること恰も公債募集の趣向と同樣にす可し從來政府が該線路に支出したる金額を凡そ四千萬圓として今日の時價に賣るときは八千萬圓以上とも爲ることならんなれども一時の賣却は自から相塲を下落せしむるの掛念あり又その代金の始末に就ても自から考ふる所なきを得ざるが故に初年には先づ四分の一を賣却して之と同時に其營業を會社に移し政府は單に株主と〓〓〓四分の三を所有し漸次に之を發賣して〓代金を〓〓〓〓〓公債を償還〓〓〓〓して東〓〓線の如きは〓〓〓〓の二倍以〓〓〓〓〓〓其〓對〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓て〓或は〓〓〓以下にても望〓のなきこと〓〓〓〓〓〓〓も其〓〓〓〓〓方の利益を以て一方の本〓〓〓ふ可し决して掛念するに足らざるなり〓を要するに賣却の實行に就て最も考ふ可きは價格の公平を得ると獨占の弊を防ぐとに在り價格の點は前に述べたる方法にて差支なしとして獨占の弊に至りては競爭を以て之を制するの外ある可らず例へば青森馬關間の線路の如き之を一會社の營業に付するも差支なき其反對に山陽線と山陰線とを合併し營業を一にして競爭の餘地を絶つが如きは斷じて不可なり此點より見れば東京仙臺間の中央線と海道線とを同一の日本鐵道會社に獨占せしめたるなどは失計たるを免かれざるものの如し外國の例を見るに英國鐵道の特色は一地方を一會社に專有せしめず幾會社の線路をして互に競爭せしむるに在り佛國の鐵道は多くは民有なるも地方を獨占して他の競爭なきが爲めに其營業の不行屆なるは獨逸の官有獨占に比較して一歩を讓らず又米國の東部諸州は獨占の弊なくして大に觀る可きものあるも西部諸州に至りては其弊甚だしくカリフオルニヤ州の如きは全く南太平鐵道會社の專有に歸して其進歩甚だ遲遲たりと云ふ左れば鐵道發達の爲めに專有獨占の弊は最も謹しむ可き所にして我輩が官線の賣却と同時に線路の分割を主張する所以なり賣却の事は我輩の屡ば論じたる所なれども目下鐵道會議の開會に際し聊か其方法を記して參考に供するのみ