「勅令第二百四號の廢止」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「勅令第二百四號の廢止」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

政府は去る二十一日緊急勅令を發して本年五月十一日發布の勅令第二百四號を廢止したり二百四號とは日本人が其筋の許可なくして朝鮮に渡航するを禁じたるものにして議會の開塲を目前に控へながら特に勅令を以て廢止したるは不當なりとの非難もあらんなれども其手續の是非は兎に角に之を廢したるは我輩の甚だ喜ぶ所なり抑も朝鮮の存亡は我國の安危に關すること淺からざるが故に餘計の世話に似たれども先年來手を盡して其獨立を助けたるに右を繕へば左に綻び前を支ふれば後に傾き遂に功を奏すること能はざりしは當局者の處置その宜しきを誤りし次第もあらんなれども朝鮮國民の腐敗は尋常一樣に非ずして朽木彫す可らざるにも因るなり世間動もすれば今の朝鮮人を以て維新前の日本人に比するものあれども彼と此とは同日に論ず可らず其世界の大勢を知らざるの點に於ては或は似たる所あるも當時の日本人は一種の氣慨を具へて自から侮る可らざるに反し今の朝鮮人は殆んど無感覺にして怒る可きに怒らず耻づ可きに耻ぢず又驚く可きに驚かずして何事にも平氣なるが如し例へば朝鮮の有志とも稱する少年生が文明の利器を見たらば定めて〓〓措く能はざることならんと思ひの外、彼等をして壯大なる紡〓〓〓を〓〓せしむるも造船所を見物せしむるも全く無〓〓〓して何等の〓〓をも起すことなしと〓〓〓〓る〓〓〓の〓に據れ〓〓〓〓〓〓無氣力にして〓以て〓〓〓〓〓〓〓之を〓〓〓〓に五錢か十錢〓〓〓れば〓み〓〓ひ〓を謝し〓去るのみならず或は盜賊と呼ばれ又は眞實物を盜みて露顯するも更に意に介することなきが如し嘗て京城に於て數名の朝鮮人が在る日本人を訪ひ來りて四方山の談話中室内に在りし懷中時計が紛失したれば主人は必定朝鮮人の所爲ならんと察して座中の一人を指し時計を盜みしは汝ならん宜しく衣を解て懷中を示す可しと命じたるに彼は命の如くしたれども品物はなし更に次の人を改めたれども無きを以て更に又其次の人を吟味したるに時計は果して懷中より現はれたりと云ふ若しも之が日本人ならんには盜まずして疑はれし者は怫然として怒り盜んで露顯したる者は慚愧して穴にも入りたき心地す可けれども彼の朝鮮人は孰れも平氣にして只ニヤニヤと笑ふのみなりしとは誠に見下げ果てたる人民に非ずや殊に甚だしきは朝鮮人に物を賣るには鞭を以て打たざる可らざるの必要ありと云ふこと是れなり京城邊にて朝鮮人の日本店に買物に來るものは彼か此かと品物をイジリ廻はして容易に决心せず一反の金巾を買ふにも半日を費すことあるのみか間がよければ盜みて去らんとするが故に番頭は鞭を以て店頭に控へ買ふならば颯颯と買ふ可しとて一鞭を加ふれば漸く决心して錢を出すと云ふ不可思議なる人間にして到底濟度す可らざる者なれば之を維新前の日本人に比して一人前の人と見做すは大間違なり我當局者の苦心經營、効を奏せずして一切水泡に歸したるも偶然に非ざるなり斯て政治上の計畫は總て失敗したりと雖も左ればとて朝鮮を放棄す可きに非ず之を放棄するは即ち我立脚の地を危うするものなれば若しも正門より入ること能はざれば裏門より入り政府の手を以て之を獨立せしむること能はずんば國民の力を以て改造せしむるの方法を求めざる可らず英國が志を他邦に伸べんとするや必ずしも政府先づ其地を略して然る後ち人民を此に移すに非ず人民をして先づ行て宗教を弘め土地を拓き商賣を營み以て立脚の地を作らしめ政府は則ち之を保護し又奬勵して次第に歩を進め何時の間にか動す可らざるの根據を据ゑて遂に目的を達するの常なり其亞米利加を拓き印度を略し阿弗利加、濠洲に志を逞うせしもの皆この手段に依らざるはなし又彼の布哇を見るに名は獨立國なれども實は既に米人の有に歸したるが如し其然る所以は米人が續續移住して其地を拓き其商賣を營み苦心經營の結果遂に勢力を得て其政權をも左右するに至りしなり左れば日本にして果して朝鮮を開かんとならば先づ盛に人民を移住せしめて宗教なり商賣なり將た農工業なり手の屆く限り働かしめざる可らず斯の如くすれば彼の無氣力なる朝鮮人も或は奮發して自立の志を立つると共に知らず識らず日本人に感化せられて何時となく文明の門に入ることある可し自他の爲め此上もなき仕合なれども或は日本人と競ふ能はず敗北してアイヌと運命を同うすることなしと云ふ可らず斯る塲合に立至らば朝鮮人の爲めには聊か氣の毒なれども今日のままに捨置けば人も〓も共に自滅を免る可らず寧ろ李氏の治下に嚴然たる文明の獨立國を作り出して他國の窺〓を絶ち以て東洋平和の〓〓とするに若かず對韓策の方針は是に於てか自から明白なるに然るに從前の當局者が政治上の計畫に失敗して手を引くと共に國民の對外運動をも抑制せんとして渡韓規則を發布し面倒なる手續を經て地方〓の許可を得るに非ずんば朝鮮に赴くこと能はざらしめたるは何故なるか我輩の不審に堪へざる所なり或は其渡航を自由にすれば無頼の徒が續續移住して事端を繁くするの虞なきに非ずとの説もあらんかなれども無頼の徒は即ち無頼の徒なり信用もなく勢力もなし迚も大事を引起すに足らず現に今日まで朝鮮に於て事端を啓きしものは無頼の徒に非ずして寧ろ上流の人なり殊に朝鮮の如き生命財産の安全ならざる未開の國に赴て志を立てんとするものは何れ本國に於て不如意を感ずる人人にこそ多かる可ければ此輩の運動を束縛するは即ち國民の膨張を妨ぐるものにして國の長計に非ず况んや純然たる商賣の目的を以て渡韓せんとするものをして爲めに不自由を感ぜしめ隨て貿易の發達を害するに於てをや區區の心配は無用なり大膽に人民を驅て■(「奚」+ふるとり)林八道到る所に縱横せしむ可きのみ今回政府が渡韓規則を廢したるは亦此に見る所あるが爲めか我輩の甚だ喜ぶ所なり