「所謂人權問題」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「所謂人權問題」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

所謂人權問題

目下政黨の流が内閣死活の問題など稱して頻りに喋々する人權問題とは如何なる事柄なるや事、苟も人權の消長に關して例へば往昔の米國に於ける奴隸賣買の如きものならんには政治問題として爭ふに充分の値ある可しと雖も今の所謂人權問題とは新聞紙條例、集會政社法等の改正に過ぎずと云ふ稱呼の仰々しきに引換へて事實の些末なる是れが死活の問題とは只驚くの外なきのみ新聞集會の取締法の如き強ひて人權に關係ありと云へば云ふ可きなれども其爭の點を聞けば如何にも些細の事柄にして外に對して國家の體面に關する大

事件に非ず好しや之を存したりとて一般の人民に非常の苦痛もなきものなるに然るに死活の問題など叫んで之に由て政黨の去就を決するの権幕を示すとは果して本心より出たる擧動なるや否や抑も新聞條例、政社法の改正に就ては何人も反對するものはある可らず今回政府より提出したる新聞條例の改正案を見るに世閒に議論の喧しかりし彼の發行の辞停止は全廢に至らざるも皇室軍事外交及び社會の秩序風俗を紊る云々の外は全く開放して政治上の言論には毫も檢束を加へず著しき進歩にして若しも論者が眞實言論を以て政府に對するの一點より原稿の條例に不便を感じて其全廢を云々したるものならんには實際に目的を達したるものと云はざるを得ず又集會政社法の如きも民閒に異論の多き條項を削除したる尚ほ其上に保安條例豫戒令なども全く廢止す可しと云ふ即ち今度の改正は多く民論を容れたるものにして我輩の所見を以てすれば當局者が情實議論の中に在りながら能くも斯くまでに覺悟したるものと寧ろ其勇氣に驚かざるを得ず要するに民論の希望に異なる所は新聞條例の皇室軍事外交以下に禁停止の制裁を存するの一點に過ぎざる可し些かの相違のみか實際は孰れにして格別の不便はなき筈なるに只この一點を捕へ死活の問題呼はりして騷々しき擧動は如何にも解す可らざる所にして我輩の曾て述たる如く今の政黨の爭は主義の爭に非ず只管喧譁の種を求て無理に花を咲せんとするに過ぎずとの言、果して實際の事實なるを見る可し進歩一味の輩の如きは現政府組織の際には大に盡力したる由にて自ら其主義に大差なきを明言し乍ら僅に禁停止の一條に由て去就を異にせんとの權幕は或は此一條は兼ね兼ね黨の宿論として唱へ奉りしものを恰も自家の政府と爲りてその實行を見る能はずとありては天下に對して眼目なしとの精神にてもあらんか甚だ殊勝なるが如くなれども恰も夫婦の縁を結ぶに頗る撓み少なき一條の索繩にすがりて百歳の偕老を契らんとしたるは如何にも淺墓なる縁と云はざるを得ず苟も政黨を以て自ら任ずる以上は兔に角に政治上の主義を明にして去就す可し單に人權問題を叫んで云々するが如き其聲如何に大なるも實際には是權の空論の後、自家の胸中に經綸の貯なきを自白するも〓〓〓〓に非ず如何〓〓〓〓〓に於ては國に大義なし〓〓〓〓ながら軍〓〓〓〓〓て〓〓〓〓〓とす可きの〓〓〓〓〓〓〓〓して〓〓〓〓〓〓〓の〓を〓〓〓し〓〓〓〓〓〓も〓〓〓〓〓〓しむると〓は〓〓〓條約改正の外に經綸の案なかる可しと云はるゝも致方なき次第にして氣の毒に堪へざる所なり政府の施設擧動を見て全體に於て同意ならば進んで贊成す可し不同意と認めたらば直に反對す可し其進退去就は只主義の如何に依る可きのみ若しも然らず所謂人權問題など云々して曖昧の閒に身を處するに於ては本來無主義と認めらるゝも辨解の辭はある可らず我輩の斷じて取らざる所なり