「議員の歳費を增す可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「議員の歳費を增す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

議員の歳費を增す可し

議會開場の前後に當り議院の擧動に付て忌はしき風貌を聞くは毎度の事にして或は某々議員は買收されたりとか又は高利貸に苦められて云々の醜態を曝したりとか殆んど記すに忍びざる事多きは何故なるやと云ふに自から種々の事情もある可しと雖も主として其連中の豐ならざるに由ることならん議會の開場期は三箇月にして歳費八百圓を三箇月に割當れば月に二百六十六圓餘、少なしと云ふ可らざるが如くなれども相當に議員の職務を盡さんが爲めには政務の取調、仲閒の相談、遊説、運動等の爲め少なくとも半歳以上は外に奔走せざるを得ず而も議員と云へば兔に角に數萬の人民に推されて國民を代表し國家の大政を衆議するものなれば其身分も自から輕からずして隨て費用も亦多く中には見苦るしき下宿屋に住ひ人力車には一切乘らず又碌々仲閒の附合もせず辨當の必要あれば握飯に滿足して八百圓の歳費をば大半懷中して歸朝するものなきに非ざれども斯の如きは所謂風變りの人物にして幾百人中僅に一二名を見るのみ以て一般の議員を律す可らず兔に角に議員たり紳士たる體面を保たんには衣食住交際萬端に付き迚も八百圓を以て引足る可きに非ず況んや當初議員と爲るときにも少なからざる運動費を要し競爭の左まで烈しからざる撰擧區に於ても二年分位の歳費は空しく飛散するの常にして斯くて首尾よく當選したる處にて殘る所は僅に半額二年分のみ二年の歳費を以て四年を維持せんとす既に已に數の許さゞる所にして其四年の諸費に假令ひ全額を以てするも足らざるものなれば懷中窮せざらんと欲するも得べからず高利貸云々の沙汰も偶然に非ざるなり竊に聞く所に據れば歳費を抵當として高利を借れる者百名もある可しと云ふ三百人の中百名が斯の如き境遇にありとは實に議員其人の不面目に止まらずして寧ろ國の恥辱と云ふも可なり聞捨にす可らざることなれば速に其歳費を增加して少しにても醜聞を防がざる可らず奏任官(普通の文官)の最下級なる者にても年俸八百圓にして勅任官の最下級は三千圓なり議員にも千五百圓若しくは二千圓位は給費して然る可きことならん或は寧ろ議員の歳費を全廢す可し斯の如くすれば貧乏人は自から斷念して富豪家のみ選出せらる可きが故に復た今日の如き醜聞なかる可しとの説もあらんかなれど是れは我國目下の事情を知らざるものなり西洋諸國の如く素封家も少小より事業の〓〓を經て無事に通達する者ならんには貧乏政治家を〓〓して〓〓なしと雖も我國に於て豪家の主人は概して〓〓〓に成長し氣力も慥ならず智能も未だ敏活〓〓〓〓〓〓して〓〓〓き政治界に奔走し歳費の事を計るに〓〓から不得手なるもの少なからざるに反し〓〓〓に〓せられて人閒の酸甘を〓め心〓〓〓〓して〓〓〓〓〓經營に〓〓〓〓〓〓〓上りの〓〓〓〓に〓〓〓〓〓〓〓を金〓〓〓〓〓〓〓するは〓〓〓無力〓〓〓〓〓〓〓を〓〓〓〓〓〓ものにして政治の進歩を〓〓〓〓〓〓されば〓〓〓〓〓を增して貧乏議員の〓行く〓〓〓計ふこそ〓下の得策なり貴族議員の如きは概して資産の豐なる人々にして歳費を全廢して名譽職とするも甚だしき差支なきのみならず歳費あるが故に之を餌として徹頭徹尾我々の意見に盲從すれば議員に撰擧す可しとて無能無才の貧乏華族を撰擧するが如き弊もなきに非ざれども衆議院の方は自から事情を異にし高利貸に苦しめらるゝ輩の中にこそ智能の士は多きことなれば相當の俸給を與へて其體面を維持せしめざる可らず人閒何人も不面目を喜ぶものはなき輩にして中には不心得より窮する者もなきに非ざれども多くは事情已むことを得ず黄白の爲めに節を屈し兩目を汚すものなれば懷中さへ暖かなれば醜聞も自から減ず可し多少の錢は愛むに足らざるなり