「御救恤金の處分」
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本文
御救恤金の處分
今度大喪に付各地方慈惠救濟の爲め帝室より金四十萬圓を下賜せられたり難有き御思召に
して感泣の外ある可らず各地方官は如何に之を處分して聖意に副はんと欲するか自から意
見もあることならんと雖も差當り其内の幾分を以て歌舞音曲停止の爲めに難澁する下等藝
人を救恤せんこと我輩の希望する所なり前日も記したる如く今回の大喪は國民〓て哀傷措
かざる所にして服喪期の長短の如きは固より毫末も意に介するものなしと雖も然れども之
が爲めに下等の藝人中に眞實飢渇に迫りしものあるは蔽ふ可らざる事實なり現に芝區新網
邊に居住する藝人等は困窮して餓死するより外なしとて將に不良の念を起さんとするの模
樣あるより時々此邊を徘徊する或る飴屋は見るに見兼ねて多くもあらぬ家財を賣拂ひ又は
近所有志者の合力を求めて右の窮民に施したりと云ふ窮迫の情、察するに餘りあることに
して思ふに各地方とも之に類するもの少なからざることなる可し帝室の御不幸を哀み奉る
の餘り斯る始末に陥りたりとは如何にも堪へ難き次第にして今回御救恤金を下賜せられた
るも推し奉るに此類の窮民を救へよとの御思召なる可きは明白なれば速に之を救濟せざる
可らず將に餓死せんとする窮民が危くも露命を繼ぐの〓を得んか天に歡び地に喜びて聖恩
の有難きを拜謝するは勿論にして又皇太后陛下の御爲めにも此上の御追善はある可らず一
日も早く此處置あらんこと〓〓〓堪へず〓かくの如くにして一部分は藝人中の窮民に施し
殘餘の分は如何にす可きやと云ふに我輩は今之を全國の窮民に分配することを好まざるも
のなり纒めて見れば四十萬圓、少なからざるが如しと雖も之れを全國無數の貧民に割當れ
ば些少の金額にして殆んど生計を妨くるに足らざるのみか本來慈善なるものは一箇人が私
に行へば著るしき功能あるものなれdも官の手を以て一般に行はんとすれば種々の苦情を
生ずるの〓〓り等しく貧民にても各々事情を異にするものにして不仕合の爲めに貧乏なる
もあれば又懶惰の爲めに困窮するもあり私の慈善者は是等の事情を斟酌して物を施すにも
自から其手心を異にするを得れ度も官邊の施與には斯の如き手心を容さゞるのみならず眞
實の貧民と〓らざるものとを區別すること頗る困難にして與ふ可らざるものに與へて却て
與ふ可きものに與へざるが如き不都合を免れず現に毛利家にては主人公〓の不幸に付〓區
の貧民に金圓を施さんとして分配方を區役所に依賴したるに其分配甚だ困難にして絹の衣
裝を〓し〓〓〓の蝙蝠傘を携ふるが如きものにして〓〓に〓るものあり其日々々の〓をも
揚げ難き貧困なる車夫にして却て兩〓に浴せざるものあり或る差配の如きは我々は貧民な
るに何故に其筋へ〓け呉〓ざりしかとて其配下の長屋のものより攻め立てられ大悶着の〓
〓〓を出して漸く事濟みと爲りしと云ふが〓〓〓の〓〓と〓は此一例にても明白にして今
回の御〓〓〓に〓〓も若しも之を〓し〓〓〓貧民に分たんとすれば〓〓〓〓を〓じて〓〓
の〓〓〓空うす〓〓と〓しとも〓〓〓〓まれば寧〓〓〓〓は市町村に保管して何か永久に
傳ふ可き其地方の慈善事業に用ふるか或は之を利殖して天災地篇等不時の災難に備ふるこ
そ至當の計なる可し斯く云へば或は難ずるものあらん全國の貧民に分配して苦情を生ずる
の恐あらば藝人中に分配するも同樣なる可しと如何にも尤もにして多少の不都合は或は免
れざる可しと雖も藝人中の貧民は全國一般の貧民に比すれば其數九牛の一毛にも足らずし
て其取調も左までの難事にあらざるのみならず一般の貧民は今回の御不幸に付特に生計上
に影響を蒙りたるをなしと雖も彼の藝人共は營業を停止せられたるものにして自から事情
を異にするものなれば隨て又特別の取扱なかる可らず即ち我輩の此説ある所以にして當局
者に於ても夫れ夫れ相應の考案あることならんとは信ずれども參考の爲めに敢て一言する
ものなり