「希臘の擧動」
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時事新報に掲載された「希臘の擧動」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
希臘の擧動
希臘の擧動、列國の去就
クリート事件の成行より希土兩國の關係ますます切迫して危機一髪の情態はロイテルの特
電に據て日々の紙上に報道する所なり抑も希臘が〓〔草冠+最〕爾たる一小國にてありな
がら歐洲列國の勸告にも拘はらず飽くまでも自説を主張し兵力に訴へても目的を達せんと
するの意氣込は甚だ殊勝なるに似たれども實際に何の賴む所ありて斯くまでに决斷したる
ものなるや單に表面の觀察のみにては殆んど解す可らざる所なり電報の所報に據ればクリ
ートの處分に付き列國の意見は同嶋より希土兩國の兵を撤去せしめて其平和を維持し名義
は矢張り土耳其の所屬としながら實際には同嶋の自治を認む可しと云ふに在るが如し而し
て列國は相共に恊議の末、希土兩國に勸告して若しも聞入れざれば力を以て強行す可しと
の意を示したるに土耳其政府は或は其勸告に應ぜんとするの色あるが如くなれども希臘は
斷然これを拒絶してクリートの自治のみにては滿足する能はずと明言したるを見れば或は
同嶋を分割せしむるに非ざれば止まざるの决心なるが如し單に兩國間の關係ならんには其
大小強弱は兎も角も事の成行より一國を賭しても爭はざる可らざるの塲合もあらんなれど
も既に列國が打揃ふて恊議の上、勸告を試み力を用ゐても強行す可しと強迫の意を現はし
たるのみならず實際にも軍艦兵隊を派遣して一見斷然たる擧動に出づるやも知る可らざる
にも拘はらず希臘が其勸告を拒絶してセサリーの境界には続々軍隊を送り最近の報道に據
れば皇太子の率ゐる聯隊も國都を出發したりと云へば殆んど國を擧て隣國の境界に迫り
つゝあるものゝ如し恰も列國を踏付たるものにして傍若無人の擧動なるに希臘が列國を相
手として大膽にも斯る擧動を爲しつゝあるは如何にも許す可らざる所なり或は列國政府の
意見は兎も角も其國民は多く希臘に同情を表して歐洲一般の與論何となく〓〓しきものあ
るが故に竊に之を賴として強硬手段を敢てするものならんとの説もあれども國民の與論と
政府の政略とは自から別にして殊に外交上の處置に至りては往々反對に出づることなきに
非ず希臘政府と雖も漠然たる他國の民論を賴として一國を孤注にするの愚は爲さゞる可し
然らば其擧動は如何なる次第なり〓と云ふに我輩の所見を以てすれば列國の一致〓〓と〓
ふも其間には〓〓ら利害を殊にして〓〓の一〓〓〓〓〓のみか或は〓〓に立入れば竊に希
臘の〓に〓〓〓〓〓〓へ〓〓〓〓ものあるに非ざるか聊か疑は〓〓〓〓〓〓〓クリートの
處分法は英國の〓〓に出で〓英國の〓〓を〓たるものなり列國一致して希臘に勸告しなが
ら〓〓〓〓〓ひたりとありて〓〓の理非當不當は兎も角もとして第一に列國の面目に係る
次第なり〓〓〓〓〓用ひても〓行す可しと明言し〓〓〓なる〓〓〓〓〓〓拒絶した〓〓〓
〓〓〓土耳其に對して〓ず〓ず〓〓〓態度を〓〓〓〓〓〓〓〓〓しながら〓〓〓〓〓〓〓
〓て〓るは〓〓〓〓〓なるもの〓〓外〓から〓し〓〓〓の進退を共にすること能はざるの
内情あるには非ざるか英國政府が自から率先して希臘の壓抑を唱へたるに引換へ露國が希
臘に對して親密の關係あるは年來明白の事實にして今回の事件に就ても露の擧動は他の列
國に比して自から熱心の度を異にするものあるが如し漫に其間の事情を推測して一方は成
る可く希土の關係を現存の儘に維持して平和を保たんとする其反對に列國の中には或は事
の變化を利とし此際に幾分か歩を進めんとして竊に魂膽を巡らすものもあらんには列國の
去就は果して如何に分る可きや假りに一方を英とし一方を露として英露を對立せしむると
きは佛は露の與國として同盟の實を呈す可きは勿論なれども他の列國の擧動は容易に知る
可らず英は近來外交上に殆んど孤立の姿を成したれども今回の事件がいよいよ破裂して土
耳其老帝國の存廢を决す可き塲合にも至らば獨逸と云ひ墺地利と云ひ又伊太利と云ひ自國
の利害上、决して坐視す可きに非ず以上の三國が所謂三國同盟の盟約は畢竟露佛の同盟に
對するものにして今日に於ては三國の交情も稍や舊の如くならざるの觀なきに非ずと雖も
其事件いよいよ大にして果して歐洲の平和を破るの恐れもあらんには三國は自衛の爲めに
其同盟を温めて何れにか方向を决することならん或は英露は既に對立の勢を成せども獨逸
の擧動明白ならざるが爲めに躊躇するものには非ずやなど漫に想像を運らせば自から種々
の想像説なきに非ざれども兎に角に實際に於て希臘が容易に屈せざるのみかいよいよ強硬
の色あるは列國の一致恊同が案外に鞏固ならざるを示すものにして其鞏固ならざるは或は
陰然希臘の側に立て聲援を與ふるものあるが爲めなる可しとの推測も強ち無稽に非ざる可
し然るに昨日の附録に記したる倫敦特發の電報に據れば希臘の内情は其面目を全うする爲
め土耳其の軍隊をも撤退せしむる如き些かの讓歩を得るに於てはクリート嶋より其軍隊を
撤退することを肯んずるものゝ如しと云へり右は單に軍隊撤去の一事を指すものか又は一
般の樣子を報ずるものか明白ならざれども兎に角に此一方は前回來の電報に反して案外に
事の穩なるを示すものゝ如し是れに由て推測すれば或は希臘は表面に強硬を裝ふて列國の
勸告を拒絶しながら事體いよいよ切迫に瀕したる其瞬間に立至り些かの讓歩に滿足して自
から體面を保つの方略に出でたるものか果して然らば他の干渉に遭ふて狼狽蒼皇利害を考
ふるの遑なくして直に其勸告を容れたるものと同日の談に非ず希臘政府亦人ありと云ふ可
きなり
會計檢査院の爭論
會計檢査院長が二十七八年戰役に關する軍事費檢査の功績を上奏したることに就き同院中
に物議を惹起して一方は院長の所爲を以て檢査院〓に進犯したりと云ひ一方は〓〓の〓な
しと云ひ其爭論今に決着せざるよし(二十三日の雜報に明なり)此事件は政治問題にも非
ず又内幕の喧嘩にも非ず法律上の爭論にして然かも會計檢査の手續に關する重大の事件な
れば双方共に飽くまでも論議を盡くして歸する所に歸せしめ一點の情實を存す可らず今雙
方の論據とする所を聞くに院長派の論據は
會計檢査院法第一條に會計檢査院は天皇に直隷し國務大臣に對し峙立の地位を有すとあ
り又同第四條に院長は院務を總理し云々とあれば院長が總理する院務の經過を直隷せる天
皇に奏上するは違法にあらず
と云ふにあり又非院長派の論據は
會計檢査院法第十五條に會計檢査院は各年度の會計檢査の成績を上奏し其成績に就て法
律又は行政上の改正を必要とすべき事項ありと認むるときは併せて意見を上奏することを
得とあり又第十條に左の塲合に於ては總會議を以て議决すとありて其第一に「第十五條に
依り上奏を爲し又は天皇の下問に奉答するとき」とあれば檢査事務に關する上奏は其事の
全般に渉ると將た一部分に屬するとに論なく總會議を經あるに可らず
と云ふに在り雙方共に一理あるが如くなれども會計檢査院の組織上より見れば院長の處置
は穩當を缺きたるの嫌を免かれざるが如し抑も會計檢査の事務は最も嚴正明確を要するも
のにして憲法第七十二條に會計檢査院の組織及び職權は法律を以て之を定むとあり而して
此正文に基きて發布したる會計檢査院法に據れば檢査の事務は一に合議制に依て决すべき
を規定し又其檢査に從事する官吏は終身官として權威の爲めに屈せず情義の爲めに惑はさ
れざるの組織にして院長と雖も檢査事務に就ては一の會計檢査官として論議するの外院議
を左右し得べからざるものなり殊に檢査事務の上奏又は下問に奉答するは最も重んずる所
にして特に總會議を開て議决すべしと規定しある程の次第なれば苟も其事の一部分たりと
も上奏の塲合には總會議を開て其决議を求むるこそ院法の精神なる可し然るに院長の處爲
こゝに出でずして院内の物議を釀すに至りしは其手續を誤りたるものに非ざるか或は今回
の所爲は全く一時の思違ひにして實際には格別責むるに足らざるものなるやも知る可らず
と雖も若しも後來に斯る例を開くときは檢査院獨立の一事に就て掛念なきに非ず兎にも角
にも双方の論を悉して歸着する所に歸着せしむること至當なる可し