「軍艦を派遣す可し」

last updated: 2021-08-22

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時事新報に掲載された「軍艦を派遣す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

軍艦を派遣す可し

布哇移住民拒絶事件に付き政府にては軍艦派遣の議あれども未だ決せざるよし該事件談判の爲めに軍艦の力を假らんとするが如きは恰も小兒の腕を捻上ると阿漕にして大人の事に非ず我輩の取らざる所なれども外交談判の事は全く別として此際に軍艦の派遣は必要と認めざるを得ず布哇には現に二萬何千人の移住民あり又米國の太平洋海岸地方にも日本人の寄留するもの何千の多きを計ふるのみか既に米國の定期航海も開けて日本船舶の往來もあることなれば米國の西海岸及び布哇の邊には常に我軍艦の二三隻ぐらゐは浮遊碇泊せしめて警備保護の任務を盡さしむるの必要は論を竢たず我輩の兼ね兼ね主張したる所なれども今の海軍に〓は軍艦の數、不足にして其邊の考はあ〓〓〓〓何分にも意の如くならず只折を見計ひて時々派遣の外なしと云ふ止むを得ざる次第なれども今回に限りて特に派遣の必要ありと云ふ其次第は布哇政府が今回突然移住民の上陸を拒絶しながら其理由明白ならざるより我國人は只管彼の政府の擧動を訝りて憤を頂くもの少なからず況して彼地に在留する二萬何千人の移住民は眼前に此事實を目撃して憤慨の情に堪へざることならん事の曲直は談判の上にて自から明白なる可しと雖も若しも數多き移住民等が一旦の情に激せられて譯もなく騒ぎ立つこともあらんには容易ならざる次第にして決して看過す可きに非ざれば此際軍艦を派遣〓〓自から其邊の鎭撫に備ふるは國交際の無事を謀るの點に於て殊に必要なる可し我輩は談判云々に〓全く關係せず只この一點よりして速に派遣の決定を希望するものなり