「新人物の採用を躊躇す可らず」
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本文
新人物の採用を躊躇す可らず
政府は所謂人材登用の約束を實行する爲め過日十餘名の地方官を〓〓し且つ中央政府二三
の局長をも取替へたり其内〓は〓〓〓もあれども多くは新に採用したるものにして斯くま
で多數の新政客を入れたるは從來に例なき所にして自から當局者の果斷と稱す可きなれど
も一歩を進めて今一段の奮發を望まざるを得ず右の更迭に付ては〓人の間に樣々の批評も
ある可し又無能に代ふるに無能を以てしたるの〓もある可しと雖も其邊は差〓〓兎に角に
果斷は人の悦ぶ所なれば此機に乘じて躊躇することなく更に新人物を求めて老朽輩を淘汰
せんには〓〓〓は一層大なる可し是れまで官吏の更迭と云へば大抵二三の人物を甲の部よ
り乙の部に寫すぐらゐの事にして珍らしくもなかりしに今や其筆法を改〓〓〓〓〓〓〓も
〓〓〓〓〓を〓〓に多く採用するときは〓〓〓〓〓して〓〓ひ材能に格別の優劣なしとす
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓足る可し〓〓新陳代謝は萬物自然の數にして政界亦然り政府
の官吏終身の官吏に非ず在野の政客終に野に死す可きに非ず内閣員の〓子にても歳月の間
には自然に政黨員に歸す可き運命に迫れることなれば政府の長老は其相續人として若手の
政客を引立て政客も亦遠慮なく相當の官に就く可きのみ年々歳々同じ目を以て同じ事を見
ればこそ何事も平氣に看過することなれども新來人の目には感ずる所も自から強くして是
れも不都合なり彼れも改めざる可らずとて此に漸く改進の端を啓くに至る可し特に民間の
政客は多年政府の情實を攻撃して大革新を唱へし者なれば其就官は即ち實地の試驗にして
果して改革す可きものあるや否やを察して自から面目を新にせんと勉むることならん或は
内閣員の更迭と共に多數の官吏を動かすは宜しからずとの説もあれども是れまでは獨り同
臭味の藩閥を以て政府を持切りたるが故に大臣が代ればとて著るしく人を代ふるの必要も
なかりしことなれども今は從來度外視したる新分子と抱合して共に政治を經營することな
れば正に是れ政界の一新紀元と云ふも可なり其慣例も自から一變せざるを得ず結局〓〓〓
建國の風に變化するは大勢の命ずる所なれば漫に將來を想像して目前急要の改革を躊躇す
るが如きは我輩の取らざる所なり社會には自から矯正するの力あり若しも後日に於て流弊
を生ずることもあらば又自然に救濟の道もある可し只注意す可きは古風の人を採らざるの
一事のみ民間の人盡く文明流の敎育を受けたるものゝみに非ず政黨の中にも固陋の輩なき
に非ず此輩は人生の事理を解せず小刀細工を以て人事を左右するを得べしと信するが故に
往々途方もなき拙策を施して意外の間違を生ずることあり前例に乏しからざることなれば
人材登用に於て特に意を用ふ可きは此邊に在りと知る可し